小川糸著『さようなら、私』(幻冬舎文庫お34-6、2013年2月幻冬舎発行)を読んだ。
人生に行き詰った女性が、旅、非日常を経験するなかで、再び歩き出そうとするまでを描く3編、「恐竜の足跡を追いかけて」「サークル オブ ライフ」「おっぱいの森」。
「恐竜の足跡を追いかけて」
不倫の恋に破れ、希望の編集の仕事を3ヵ月で退職してしまった美咲(22歳)。中学時代の同級生が自殺し、お別れ会のために帰郷した私は、7年ぶりに初恋の相手ナルヤに再会する。彼の誘いを受けて、彼の第二の故郷モンゴルに向かう。大草原の自然に寄り添う生活の中で、再生への力を得ていく。
ナルヤは言う。「もし自分に行き詰ったら、もっと広い世界に飛び出して、自分よりも上を見るといいんだ。」
「サークル オブ ライフ」
ヒッピーの母から見捨てられ、トラウマを抱える楓(35歳?)。出張で、僅かな間だけ母と過ごしたことのあるカナダのバンクーバーに出かける。母への恨みに悩まされながら、決して開けなかった母のぼろぼろのスーツケースをついに開けると、・・・。
「おっぱいの森」
幼子を突然死で喪った母親の美子は、夫とけんかして家出する。偶然知り合ったオカマ男性が経営する“おっぱいの森”という店でバイトすることとなり、他人を癒すなかで自らも再生していく。
店長がいう。「サクラちゃん、ここは決して、悲しみの背比べをする場所ではないのよ。ここはね、人生の疲れを癒して生まれ変わる、そういう場所なの」
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
小川さんの小説はいずれも女性の再生物語で、癒し系の雰囲気は良いのだが、設定が違うだけでパターン化している。
「恐竜の足跡を追いかけて」は、モンゴルの大平原での生活が良く書けていて読ませる。傷を抱えることになった日本での生活をもう少し書き込んだら、再生への気持ちの変化に説得力が出たと思う。
「サークル オブ ライフ」は、ヒッピーからホームレスになる母親という設定が変わりすぎていて、着いていきにくい。スーツケースの中身もよくある話で・・・。
滞在したことのあるバンクーバーの記述は懐かしかった。ガラスだらけの高層ビル、リーンキャニオンパーク。ただ、水上バスで渡ったのは、イングリッシュベイでなく、バラッドインレットだ。また、オーガニック専門スーパーのケーパーズは買収されて今は普通のスーパーになったようだ。
「おっぱいの森」は、そんな店考えられないというところで止まってしまう。
初出「恐竜の足跡を追いかけて」:2011年「GINGER L.」、「サークル オブ ライフ」:2011年「パピルス」39号、「おっぱいの森」:2008年「ラブコト」9月号、これらを大幅加筆
小川糸は、1973年生れ。山形市出身。
2007年、絵本『ちょうちょう』
2008年、『 食堂かたつむり』
2009年『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』
2009年『ファミリーツリー』
2010年『つるかめ助産院』
fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。編曲はご主人のミュージシャン水谷公生。
ホームページは「糸通信」。