山田詠美著『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』(2013年2月幻冬舎発行)を読んだ。
「人生よ、私を楽しませてくれてありがとう」96歳で死んだ曾祖母が死の間際に残したこの言葉で始まる。澄川家としてひとつの家族となるべく、子連れの男女が再婚する。母が溺愛するカリスマ的な長男澄生。しっかり者の真澄。無邪気を演じ家族の一員になろうとする創太。やがて誕生する末っ子、千絵。幸せな家族ができたように思われた。
しかし、家族の中心にいて絆だった澄生の17歳での突然の死で家族は壊れ始める。母はアルコール依存症となり、家族は兄に続き、母まで失おうとしている。不在がちな父に代わる真澄はいらだち、創太は継母に必死にすがり、千絵中学でいじめにあう。家族の中の立場が微妙に異なる真澄、創太、千絵が、互いに思いあい、背きながら、葛藤の十数年の家族の日々を、それぞれ愛惜をもって語る。
初出:「ポンツーン」2012年9月号~12月号の連載に加筆、修正
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
山田詠美は上手い。これが小説家だ。
微妙に異なる再婚家族内の兄弟姉妹の中で、幸せな家族を演じ、反発し、助け合う姿を見事に描き、最初から最後まで、長男の死を背負いながら、家族の再生一筋でこの小説を描き切っている。
家族をバラバラにしたのが母なら、最後にまとめたのも母だったというラストシーンは、多少ご都合主義のにおいもするが、見事なものだ。
ひとつだけケチをつけるとしたら題名だ。長い題名にするなら、村上さんみたいに、「何これ」と疑問を持つ文にして欲しい。
気になった言葉。
「真澄ちゃん、これは、男と女のことに限るけど、かけがえのない人を失った時の穴は、別のかけがえのない人でないと埋められないよ」
「努めて明るく物事を切り捨てるかのような前者(「どってことない」)に比べて、こちらは(「ありがたい」)、じんわりと何か決して捨てられないものに身を浸すような響き。」
「今日という日が残り人生の最初の一日」映画アメリカン・ビューティ?
山田 詠美
1959年 東京生まれ。明治大学文学部中退。
1985年「ベッドタイムアイズ」(文藝賞受賞)で衝撃的デビュー。
1987年 『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞
1989年 『風葬の教室』で平林たい子賞
1991年 『トラッシュ』で女流文学賞
1996年 『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞
2001年 『A2Z』で読売文学賞
2005年 『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、を受賞
2009年『学問』
2010年『タイニーストーリーズ』
2011年共著『顰蹙文学カフェ』
2012年『ジェントルマン』で野間文芸賞受賞
2003年より芥川賞選考委員。