文:小泉和子、写真:田村祥男『昭和すぐれもの図鑑』(2007年3月河出書房新社発行)を読んだ。
現在はほとんど見かけなくなった昭和30年代の生活の道具、一つ一つを1ページの大きな写真と2ページの解説で丁寧に解説している。
著者の他著書と内容的に重なる部分もあるようだが、取り上げる品数が50点程度で、今再び見直される気運にある(本当?)品々が紹介されている。
第1章『昭和のすぐれもの図鑑』
「縁側」、「ござ」、「かまど」、「蝿帳(かや)」、「糸瓜」、「軒」、「踏み台」、「糠味噌」、「茶箱」、「負ぶい紐」、「畳紙(たとうがみ)」、「座布団」、「ちゃぶ台」、「物干し竿」、「風呂敷」、「掘りごたつ」、「和風厠の効用」、「すだれ」、「畳」、「桶と樽」、「蒲団」
第2章『なつかしき昭和の道具』
「飯炊き釜」、「風呂」、「衣桁(いこう)と衣紋掛け(えもんかけ)」、「氷冷蔵庫」、「張り板」、「すり鉢」、「湯たんぽ」、「掃除道具」、「吸入器」、「ミシン」、「盥(たらい)」、「蚊帳」、「爪掛(つまがけ)」、「重箱・銚子・盃」、「日向水(ひなたみず)」、「セルロイドの箱」、「ほろ蚊帳」、「吊り手水」、「机」、「手拭い」、「足袋干し」、「自転車とリヤカー」、「乳母車」、「おしめ干し」
を紹介。
著者は、自分が生まれ育った家を「昭和のくらし博物館」として展示している。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
大きく見事な写真付きなので、年寄りは思い出が湧き出してくるし、若い人も使い方のイメージをつかみやすいだろう。といっても、やはり昭和30年代以前に子供時代を過ごして人たちのために本だ。
蝿帳:夜遅く帰ると、食卓の料理の上にかぶせてあった。昔は家の中にもいつもハエがいたものだった。
踏み台:柱時計のネジを巻くのが私の役目で、踏み台を持ってきてその上で背伸びしながら巻いたものだった。そういえば、ふと時計の振子を見た家族が「あ! 時計が止まってる」などと言うのだから、いいかげんな生活だったのだ。
畳紙(たとうがみ):4つにたたむように着物を包み、結び紐を結ぶ紙。
衣桁(いこう):屏風のように2つ折れになる。直角にして部屋の隅に立てて、着物をかける。前に乱れ箱を置いて、足袋、帯揚げなどを入れる。
衣紋掛け(えもんかけ):和服用のハンガー。我が家のものは、竹製(衣紋竹)だった。
張り板:長く着て汚れた着物は、縫い目を解いて、単なる布にして、洗って、張り板に貼り付けて天日で乾かす。そして、また着物に縫う。蒲団も布を洗い、綿は業者に出して打ち直す。母が庭で張り板を並べているのを思い出す。昔の女性は忙しかった。
蚊帳:この本のとおりだ。蚊帳をつり始めた夜は、中でひっくり返って足を延ばし、蚊帳の天井を蹴り上げるのが楽しかった。朝は蒲団の上に広がった蚊帳の上で泳いでよく怒られた。大きくなると、両手を広げて蚊帳の上のヘリをつまみ、畳んでいくのを手伝った。
爪掛(つまがけ):下駄や、足駄の先につけて、雨水や泥土を防ぐカバー。見たことはあるが、名前は知らなかった。
吊り手水(つりちょうず):トイレを出た所の軒先に円筒形のタンクが吊してあり、下に突き出た棒を上に押すと、中に蓄えられた水がチョロチョロと出てくる。その水で手を洗う。我が家は水道だったが、親戚の家にあった。そばに手拭いがつるしてあったのかどうかは覚えていない。
小泉和子
1933年東京生まれ。女子美術大学芸術学部洋楽科に学ぶ。1970年から5年間、東京大学工学部建築学科建築史研究室で日本家具・室内意匠史を学ぶ。現在、文化財保護審議会専門委員、生活史研究所主宰、昭和のくらし博物館館長。工学博士。著書に『図説イギリスの生活誌』『台所道具いまむかし』『室内と家具の歴史』『昭和──台所なつかし図鑑』など多数。
田村祥男(たむら・さちお)
1943年東京生まれ。東京綜合写真専門学校卒。画家利根山光人氏に強く影響を受け、タイ、インド、台湾の取材に同行。同氏死後、北上市利根山光人記念館の企画・展示を1996年より担当。