玉岡かおる著『蒼(あお)のなかに』(2004年5月角川書店発行)を読んだ。
播磨の旧家に生まれ育った漆原紗知。祖母の瀬織はお嬢様育ち、神社の娘で巫女。母の英子は大陸で終戦となり子供たちを連れて日本帰り、素麺「揖保の糸」を作る工場で働く忍耐強い女性。そんな母に反発し飛び立った紗知は、結婚に破れた後、小さいながらも編集事務所を設立、必死の思いで人生を自分で切り拓いてきたつもりだった。
「私はこの人生で、まだ、何もしていない」と人生の転機にさしかかった46歳。子宮がん、会社の危機、さまざまな困難が紗知を襲い、エクス・ハズバンドの佳門、取引先の不倫相手世良、年下のカメラマン永吉嶺(たかね)と3人の男が絡む。
マザー・ウッド(母親なるもの)と白鳥が何回か登場する。
マザー・ウッド。地面に倒れた母なる樹木の朽ちた幹から、弱々しく芽を吹き枝をもたげた若木を思った。母から受け継いだ肉と血と精神を元に、こうして自分の肉体が生きようとしている事実。
「高坂さんは母親なんでしょ? 生きてあげなくちゃだめじゃない」・・・
「こどものいないあなたなんか、わからないわよ」
「わかるわよ、私だってこどもだったんだから」
「高坂さんは母親なんでしょ? 生きてあげなくちゃだめじゃない」・・・
「こどものいないあなたなんか、わからないわよ」
「わかるわよ、私だってこどもだったんだから」
白鳥は、あいかわらず、涼しい顔して(水面下では)じたばた足掻くのみ。そう覚悟を決めた。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
主人公は、辛抱強く我慢し続ける母への反発もあって、都会で独立すべく離婚後結婚もせずに数人の会社を戦闘的に運営し頑張り続ける。会社運営の話、幼いときの巫女の祖母の話、3人の男性との話、子宮がんの話などが巧みにまじりあい、興味をつなげ、370頁を一気に読ませる。
しかし、全体として古い形の小説であり、平凡で深みはない。TVドラマ(韓流?偏見?)の脚本を読んでいる感じだ。具体的に1つだけ挙げると、ここぞというときに必ず現れ良いとこ取りする嶺がかっこ良過ぎ。
玉岡かおる(たまおか・かおる)
1956年兵庫県三木市生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。中学校で2年間教職。
1987年『夢喰い魚のブルーグッドバイ』神戸文学賞を受賞し文壇デビュー
1997年『をんな紋―まろびだす川』が山本周五郎賞候補作
2008年、『お家さん』で織田作之助賞受賞。
夫は歯科医で、子供2人。ブロードキャスターなどテレビのコメンテーターとしても活動。