東野圭吾著『私が彼を殺した』(講談社文庫ひ17-23、2002年3月15日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
婚約中の男性の自宅に突然現れた一人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺をはかった。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルの数とその行方。加賀刑事が探りあてた真相に、読者のあなたはどこまで迫れるか。
容疑者である神林貴弘、駿河直之、雪笹香織の3人が交替で各7回語りながら話が進んでいく本格推理小説。
最後の最後に「犯人はあなたです」という加賀刑事のひとことで終わるが、誰かは示されない。
一番後ろの袋とじ解説のヒントを読んで、読者が推理するという趣向。
3人ともに穂高誠を殺す動機は十分持っている。
たとえば、何回目かの雪笹香織の章の最後は、
あたしは蘇った。穂高誠によって、心を殺された雪笹香織が、今日生き返ったのだ。あたしはやったのだ。あたしが彼を殺したのだ・・・。
と終わる。
そして、次の駿河直之の章の最後は、
準子、仇をとってやったぞ。
俺が穂高誠を殺してやったぞ――。
と終わる。
穂高誠と無理心中したかった浪岡準子は毒入りカプセルを11個用意した。穂高誠の、前妻とおそろいのピルケースには2個のカプセルが入る。このカプセル、ピルケースが、神林貴弘、駿河直之、雪笹香織などと人の手を渡っていく流れの解明が犯人特定につながる。
初出:小説現代増刊号「メフィスト」1997年9月号、12月号、1998年5月号、10月号
本書は1999年2月講談社ノベルスとして刊行。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
各登場人物のいわくつきの過去は語られるが、人物の掘り下げはなく、私の嫌いな謎解きだけの推理小説だ。
しかも11個もあるカプセルの行方を探るなど面倒で集中できない。はっきり言えば、私には犯人が分からなかった。袋とじ解説のヒントを読んでも判然としない。
そんな私でも、結局、スイスイ読んでしまうのは、何故? 肝心の謎は解明できなくとも一気に読めてしまう、東野マジックか?
登場人物
穂高誠(ほだか・まこと):脚本家。美和子と婚約。「穂高企画」のオーナー。鼻炎アレルギー。37歳。
神林美和子:穂高の婚約者。詩人。小学生の時に両親を亡くし、兄とは別の親戚に預けられた。26歳
神林貴弘:美和子の兄。美和子に対して恋愛感情を持つ。美青年。大学で量子力学研究室の助手。
駿河直之:穂高のマネージャー。
雪笹香織(ゆきざさ・かおり):美和子の才能を見出し、開花させた編集者。以前、穂高の恋人だった。
浪岡準子:動物看護士。穂高と結婚と思っていて、美和子との婚約を知り自殺。
西口絵里:香織の後輩の編集者。
穂高道彦:誠の兄。茨城の実家に両親と住む。
加賀恭一郎:練馬警察署の刑事
土井、中川、山崎、菅原:警視庁捜査一課の刑事