hiyamizu's blog

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芥川龍之介短編集』を読む

2020年01月04日 | 読書2

 

ジェイ・ルービン編、畔柳和代訳、村上春樹序『芥川龍之介短編集』(2007年6月30日新潮社発行)を読んだ。

 

ペンギン・クラシックスのジェイ・ルービン英訳の芥川の短編集 ”Rashomon and Seventeen Other Stories(2006)”を逆輸入した。つまり、芥川作品と村上序文を日本語の原文に復元し、編(訳)者ルービンの解説を日本向けに書き直したものだ。

 

まず、ルービンによる「芥川龍之介と世界文学」(畔柳和代訳)が19ページ

村上春樹による「芥川龍之介――ある知的エリートの滅び」が21ページ

本文は英語圏の読者を魅了した芥川龍之介の短編集で、第一部から第四部の四つのカテゴリーに分類される。

 

第一部「さびれゆく世界」:「羅生門」「藪の中」「鼻」「竜」「蜘蛛の糸」「地獄変」

第二部「刀の下で」:「尾形了斎覚え書」「おぎん」「忠義」

第三部「近代悲喜劇」:「首が落ちた話」「葱」「馬の脚」

第四部「芥川自身の物語」:「大導寺信輔の半生」「文章」「子供の病気」「点鬼簿」「或阿呆の一生」「歯車」

 

村上春樹は語っている。

日本の近代文学作家の中から「国民的作家」十人を選ぶとしたら、夏目漱石、森鴎外、島崎藤村、志賀直哉、芥川龍之介、谷崎潤一郎、川端康成、太宰治、三島由紀夫で、「あとの一人はなかなか思いつけない」と書いている。ただし、個人的に愛好するのは、夏目漱石と谷崎潤一郎で、芥川龍之介がそれに次ぐ。森鴎外も悪くはないが古典的すぎる。川端は苦手で、島崎と志賀には興味がない。芥川については、文体と文学的センスがあまりにも鋭利で、欠点にもなった。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき)(最大は五つ星)

 

教科書で読んだ作品も多いが、歳を経て再読すべきだ。自分の考え方の変化が分かる。

執筆年別ではなく、背景の時代別に分けた4部構成は、作品理解の助けになる。

 

大学生で「鼻」を書いた才能、とくに文章力には驚かされる。若くて完成されていた。実体験を積み重ねず、才能だけを頼りに、新たなテーマを求めて何十年も書き続けるのは困難だったんだろう。第四部の作品群は、拒否していた私小説にたどり着き、命を削りながら、自ら命を絶つその日に向かって、ひた走っていくようで、哀切極まる。このあたりの分析は村上春樹の文が適切で、面白い。

 

 

芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)

(1892-1927)東京生れ。東京帝大英文科卒。

在学中、短編「鼻」が夏目漱石の激賞を受ける。今昔物語をもとにした王朝物「羅生門」「芋粥」「藪の中」、中国の説話による童話「杜子春」などを発表。1925(大正14)年頃より体調がすぐれず、「唯ぼんやりした不安」のなか、薬物自殺。「歯車」「或阿呆の一生」などの遺稿が遺された。

 

ジェイ・ルービン Jay Rubin

1941年ワシントンD.C.生まれ。ハーバード大学名誉教授、翻訳家、作家。シカゴ大学で博士課程修了ののち、ワシントン大学教授、ハーバード大学教授を歴任。芥川龍之介、夏目漱石など日本を代表する作家の翻訳多数。特に村上春樹作品の翻訳家として世界的に知られる。

著書に『風俗壊乱:明治国家と文芸の検閲」『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽」『村上春樹と私』、小説作品『日々の光』、編著『芥川龍之介短篇集』がある。

英訳書に、夏目漱石『三四郎』『坑夫』、村上春樹『ノルウェイの森』『ねじまき鳥クロニクル』『神の子どもたちはみな踊る』『アフターダーク』『1Q84』など。

 

畔柳和代(くろやなぎ・かずよ)

1967年生れ。東京医科歯科大学教授。

訳書にキャロル・エムシュウィラー『すべての終わりの始まり』、マーガレット・アトウッド『オリクスとクレイク』、ジョン・クロウリー『古代の遺物』(共訳)、バーネット『小公女』『秘密の花園』などがある。

 

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