篠田節子『介護のうしろから「がん」が来た!』(2019年10月10日集英社発行)を読んだ。
アルツハイマー型認知症の母につき合って二十余年、ようやく施設へ入所して、一息ついた。今度は自分に乳がんが発覚。介護と執筆の合間に、治療法リサーチ、病院選び、検査、手術、還暦過ぎての乳房再建、同時進行で老健の母が問題を起こし、たびたび呼び出される。落ちこんでる暇はない。
直木賞作家・篠田節子の明るく元気一杯で、えげつないほどあけすけな闘病 & 介護エッセイ。
乳房再建手術を担当した聖路加国際病院・ブレストセンター形成外科医との対談「乳房再建のほんとのトコロ」も収録。
触診とマンモは毎回異常なしだったが、母親が老健に入所して手が空き、甲状腺穿刺検査したら厳重経過観察と言われた。その後、乳頭から出血があり病院へいくが、マンモの結果は白、エコーで五分五分。さらなる検査でクロと判定される。
「年寄りを自宅で看ていれば、要介護度に関わりなく、自分の体調は二の次、三の次になる。」……「病気が見つかって入院とか言われると、おばあちゃんを看る人がいなくなるので、いくら具合が悪くてもお医者さんには行かない」と当たり前のように語った知人もいた。
乳房温存手術し放射線治療か、あるいは切除手術するか? さらに、還暦過ぎて再建するか否か? 迷った末の著者の結論は切除し再建。再建後のブラジャーの話など、一つの例ではあるが実用上の役に立つ情報満載。
リハビリの経験から、動かさないと体は錆びつき、元に戻すには大変だと実感。行きとどいた看護はかえって本人に苦痛を残す。
施設での向精神薬の使用はメディアなどで批判されることが多いが、著者は必要な場合があると言う。(参考:このブログの「母(5)入院」)
老健は原則3ヶ月なので新たな施設を探さねばならない。この経緯も我が事を思い出して、ただただご苦労様と伝えたい。(参考:このブログの「母(6)老健」)
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
さすが小説家、臨場感、ユーモアたっぷりの語りは読ませる。それにしても、かなり手がかかる介護、自身の手術・リハビリ、小説執筆と大活躍の中で冷静さを保っているのには感心する。
楽しみにしていたおっぱいの話は、あけすけ過ぎて僕の夢を粉砕してくれた。認知症の母の暴言にも負けてない篠田さんの対応は小気味よい。がんと介護の話を明るく、たくましく戦う篠田さんの健闘も、実際は辛いに決まっているが、思い切りよい行動と、ユーモアある表現に包まれて、読んでいる私もグイグイ進んでいけるような気がする。