久坂部羊著『生かさず、殺さず』(2020年6月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
がんや糖尿病をもつ認知症患者をどのように治療するのか。認知症専門病棟の医師・三杉のもとに、元同僚で鳴かず飛ばずの小説家・坂崎が現われ、三杉の過去をモデルに「認知症小説」の問題作を書こうと迫ってくる。医師と看護師と家族の、壮絶で笑うに笑えない本音を現役医師が描いた医療サスペンスの傑作。
数人の患者のトラブルの話が続き、三杉の過去の医療ミスと、元同級生の取材が絡み合る。
結果として三杉はつぶやく。(p306)
「ほどよい医療で、生かさず、殺さずってことか」
その言葉は、ふつうに使われる過酷な意味とはまったくちがう形で、三杉の腑に落ちた。認知症の患者を無理に生かそうとするのも、無理に死なそうとするのもよくない。その人にとって、必要なことろ過不足なくするのが、ほどよい医療ということだろう。
主な登場人物
三杉洋一:世田谷区の伍代記念病院の通称「にんにん病棟」の医長。42歳。WHO熱帯医療研究所を経て現職。
妻は亜紀で、13歳の長女と、10歳の次女がいる。
大野江諒子:看護師長。54歳。美人。権威に媚びない。愛煙家。
梅宮なつみ:看護師。発言が率直すぎるが明るい。
坂崎甲志朗:三杉の医学部の同級生。医師を止めたが売れなくなった小説家。
鈴木浩:脳梗塞と脳欠陥障害性の認知症。74歳。妻富子はかっての夫の業績を長々と自慢し、私にできることならなんでもしますと語る。三杉はそれなら、その長話を止めて欲しいと思ったが言わなかった。
田中松太郎:前立腺がんの疑い。認知症。84歳。娘澄子は徹底治療を要求する。
笹野利平:元中学校教師。三杉が以前在籍した病院で膵臓癌の手術をした患者。妻は佐知子、息子は慎平。
初出:「週刊朝日」2019年4月12日号~2020年1月3-10日号
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
主人公は、医療とのバランスを取らずに、なにより患者の事だけを考えすぎて迅速に判断できない。誠実というより、単なるグズで小説でなければ最悪の結果に陥る。いつまでもグズグズ迷い続ける主人公にイライラ。
私は、厳しい現実をはっきり言う、口の悪い大野江看護師長に全面賛意を表明します。
その他の登場人物
佃志織:看護主任。42歳
細本沙由理、辻井恵美、高原、疋田康子:看護師
小田桐達哉:現栄出版社の辣腕編集者
川尻順:写真週刊誌「バッカス」の記者。版元は現栄出版社。
大室賢治:「月刊エンジョイ・ケア」のライター
佐藤政次:アルツハイマー型認知症。元理髪師。重度糖尿病。妻は芳恵。
高橋セツ子:骨折し手術後、認知症悪化。92歳。真佐子は66歳の娘。
伊藤俊文:重度認知症。パーキンソン病。85歳。
渡辺真也:伊藤俊文と同室のルビー小体型認知症の元新聞記者。
中村彰子:前頭側頭型認知症。すぐ「ドナドナ」を歌いだす。
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