久坂部羊著『怖い患者』(2020年4月10日集英社発行)を読んだ。
海堂尊や知念実希人など現役医師としてデビューしたミステリ作家の中で、かなり毒気の強い作風の久坂部羊が「読後感最悪小説集という感じ」と自ら語る5編の短編集。
「天罰あげる」
地味で職場で仲間外れにされている宮城愛子は、どんな病院に行ってもパニック障害と診断され、納得できない。“ドクターショッピング”に走り、ようやく信用できる心療内科病院の小川医師に巡りあった。しかし、小川医師の問診は愛子の幼少期にこだわり、再び不安を持つ。さらに小川が匿名の作家でもあると知り、愛子のプライバシーが利用されていると疑いを抱く。そこで愛子は同病の砂田汐美と相談し……。
「蜜の味」
医師となって4年目の外科医の高見沢涼子は、患者の不幸に内心密かにそこはことない快感を覚えてしまう。涼子に綿貫義人という恋人ができ、結婚も迫る中、幸せの倍の不幸が訪れそうな不安が抑えられない。
「ご主人さまへ」
妊娠中の宇川真実子は、一級建築士の夫・昇平と、有名幼稚園に通う智治の3人暮らし。「毛筆ミネラル検査」でアルミニュウムが基準値以上あると分かり、アルミホイール、缶ビールを全部捨てた。昇平のもとに自分を誹謗する手紙が届いていた。手紙を書いたのは幼稚園のママ友か、それとも姑か義姉か。悪い事ばかり考えてしまう。
「老人の園」
医師の九賀は、自身の経営するクリニックに、心地よく利用者に過ごしてほしいと心を砕いた老人たちのためのデイサービスを併設した。癖のある、認知症も混じった老人たちにトラブルは尽きない。老人のパラダイスにしたいという思いから、綺麗事で済ます久賀の無為無策が原因で、2グループに分かれていがみ合う老人たちはやがてエスカレートして、ついに……。
「注目の的」
大学の懇親会で司会をしなければならない教務課の小山希美(のぞみ)は、緊張し声が出なくなって倒れて入院することになる。先輩の川野夏花が、最近問題になっているヘルペスの抗ウイルス剤ミシュリンの副作用が原因ではないのかと告げた。希美は副作用を告発しようとする患者や医師の団体・レインボーに取り込まれ、TV出演、講演会などしてすっかり巻き込まれてゆく。集団訴訟のための書類に記入する必要からミシュリンを処方されたクリニックに電話してみると‥‥。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
かなり毒気の強い作風の著者が「読後感最悪小説集」というだけのことはある。読んで楽しい小説ではないが、私にとっては、おかしくなっていく主人公と距離を取れるので、他人事で読み進められた。
題名からは、医者にしつこく苦情をいうモンスター患者の話と思ったのだが、主人公が自滅していく話だった。