hiyamizu's blog

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ジョン・M・マグレガー『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』を読む

2020年10月28日 | 読書2

 

ジョン・M・マグレガー著、小出由紀子訳『ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で』(2000年5月25日作品社発行)を読んだ。

英語名は “In the Realms of the Unreal”。正式名は『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語』という書名。

 

この本は3部からなる。

まず大部分が25㎝*30㎝の横長の挿絵である図版が60ページ以上続く。実物の挿絵は300枚以上あり、全てダーガーによって描かれている。

 

Part1は「非現実の王国で」の物語の実物は15巻・1万5千頁あり(世界一長い長編小説と言われる)、この本では抄で、19章24頁ある。

 

Part2は、この本の著者マグレガーによる「ヘンリー・ダーガーの世界」の解説。

 

元本の著者ヘンリー・ダーガー(米国1921~1973)は、16歳で知的障害施設を出所後、71歳まで病院の下働きを勤めた。天涯孤独、不遇の人生の中で友人もなく一人部屋にこもって19歳から約60年間書き続けた。

ダーガーが老人ホームに収容される前に、アパートの家主・芸術家のネイサン・ラーナーが整理するために部屋に入ってみると、15巻・1万5千頁以上のタイプ打ちされたテキストと300枚以上の挿絵からなる物語を発見した。女の子たちを主役にした残酷な戦争の物語で、誰にも見せるつもりも無く描き続けられた作品だった。

 

物語は、子供奴隷制を持つ軍事国家『グランデリニア』と、カトリック国家『アビエニア』との戦争を、従軍記者であるダーガーの視点で描いた架空戦記。アビエニアを率いる7人の少女戦士、ヴィヴィアン姉妹が何度も敵に捕まるが抜け出し、守護する巨大な龍『ブレンギンズ』の助けを得て最後に勝利する。

 

ダーガーは少女の写真やイラストを大量に集めていたが、一番のお気に入りの殺された子供の写真をなくしてしまった。ダーガーは神に祈り続けたが写真は出てこなかった。彼は神を脅迫しようと、小説の中の子供たちを残酷な目にあわせ、子供奴隷の虐殺、内臓が飛び出すような酷い絵を描き始めた。


まともな教育を受けなかったダーガーはゴミ捨て場などから拾った雑誌・広告などからの切り抜きをトレースして挿絵を描いた。切って貼ったような絵がハンコのように並べられていたりしてそれが、独特の味を出している。

また、少女たちの多くは裸で描かれ、小さなペニスが描かれている。これにはダーガーが女性の裸を見たことがなかったためという説もある。



私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

なにより知的障害者施設出身の教養もなく貧しい、孤独な男が、60年間物語と挿絵を描き続けたことに驚く。彼の部屋はゴミ捨て場から拾ってきた少女の写真、イラストが一杯で、描いた絵も少女の残忍な絵が多く、ゆがんだ心を感じさせる。ただし、彼自身は他人に見せる気はなく、ただ自分一人で妄想の世界に入り込んでいたのだ。

 

彼の小説、文章には興味がないが、描いた絵は、その底になにか狂っているという感じもするが、なにか味がある。そして、それ以上に膨大な作品を残した彼の人生に想いが引き込まれる。今この日本にもターガーが居て、一人もくもくと文と絵を書いているかもしれない。

 

ジョン・M・マグレガー John M MacGregor, ph.D

美術史研究家・アメリカ精神医療芸術研究の第一人者。
1978年プリンストン大学博士課程修了。
各所で精神医学の研修を受け、精神医学/精神分析と芸術にまたがる独自の研究分野を切り開く。
1971年から1985年まで、トロントのオンタリオ美術学校で芸術心理学の教授
1985年以降は、精神医学に関わる芸術およびアール・ブリュット=アウトサイダー・アートの調査研究、執筆
1990年アメリカ精神病跡学会よりエルンスト・クリス・プライズを受賞。

 

 

小出由紀子(こいで・ゆきこ)

早稲田大学卒業。(株)資生堂勤務を経てインディペンデント・キュレイター。

企画展に「ビル・トレイラー 彼はブルースを描いた」展
1997年)、「生の芸術」展(京都文化博物館、1997年)など。

編書に『アート・インコグニト』『アドルフ・ヴェルフリ 揺篭から墓場まで』

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