辻堂ゆめ著『答えは市役所3階に 2020心の相談室』(2023年1月30日光文社発行)を読んだ。
「こんなはずじゃなかった」。進路を断たれた高校生、恋人と別れたばかりの青年、ワンオペで初めての育児に励む女性……。市役所に開設された「2020こころの相談室」に持ち込まれたのは、切実な悩みと誰かに気づいてもらいたい想い、そして、誰にも知られたくない秘密。あなたなりの答えを見つけられるよう、二人のカウンセラーが推理します。
明日への一歩のために、私たちは心を映す鏡になればいい。本当も噓も映し出す鏡に。
市役所の相談室を訪れた5名の悩みを巡る連作短編集。
コロナ禍で苦しんだ人が立倉市役所の「こころの相談室」を訪れ、熟達のカウンセラー晴川さんと、年寄りの正木さんに不満をぶちまける。その後、どうなったかが描かれ、最後は晴川さんが正木さんに謎解きするという構成。
相談者は、必ずしも真実を語らない、都合の悪いところは隠し、嘘をつき、自分の不満だけを曝け出す。2人のカウンセラーは巧みに傾聴して、心を解きほぐす。そのうえで晴川さんは、相談後の結果も踏まえて、相談者の嘘を明らかにし、真実を推理する。
第一話 白戸ゆり(17)
合唱部の高校3年生のゆりは、シングルマザーの収入では進学は無理で、ブライダル業界へ就職を希望していた。しかし求人はなく、第二希望のホテル業界からも求人は1件だけで、成績抜群の親友の花菜が優先されてしまう。
ゆりは相談室で、合唱部の全国大会が中止になり、求人がなくて将来への希望がないと嘆いた。さらに面会禁止の病院で祖母が亡くなった話で涙が出てしまった。さらに合唱の話をしている途中で感情が暴発し、お守りを投げ捨ててしまった。
彼女は何に怒り、絶望したのか?
第二話 諸田真之介(29)
相談室で会社員だと名乗る真之介が、婚約者・愛花にコロナ禍で発熱外来の看護師をしているのは危険だからやめて欲しいと言ったことから別れ話になったと憤慨している。しかし、実は……。
第三話 秋吉三千穂(38)
三千穂は38歳での初産。パートナー立ち会う設備が整った病院を選んだのに、健司は仕事が忙しくて来られなくなった。産後も姿を見せない健司はあの女と切れていなかったのだ。不倫相手は……。
第四話 大河原昇(46)
コロナでネットカフェが閉まり、建設作業員の大河原は公園に寝泊まりしていうが、誰かが狙っているような気がして金属バットで武装した。結局、大勝負はやめて、寮付の建設作業員になるというが、実は……。
第五話 岩西創(19)
予約したが現れない岩西の自宅に相談室から電話を掛けたが、岩西は予約していないという。結局そのまま電話で相談することになる。大学はオンライン講義ばかりで、他の学生との交流もなく、生きるのが面倒になったと語る。高校生なみの小遣いしかよこさない父親に岩西は反発するが、実は……。
初出:「ジャーロ」80号~84号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
5人の悩みはすべてコロナ禍によるひずみが原因だが、内容は様々だ。そして、いずれの相談者も懸命に悩みを訴え、二人のカウンセラーの助けを受けてなんらかの形で治まりをみせる。
しかし、その後の二人だけの会話の中で、晴川さんが正木さんに、相談者は真実を語っていないこと、なぜそうなのかと謎解きする。
この謎解きが意外なもので、相談者自身がまったく逆の職業であったりして、驚かされる。推理した根拠は多少強引すぎるが、良しとしよう。
「カウンセラーとは、答えを出さないプロなのだ。…ありのままの相談者を受け入れ、そばに寄り添おうとする。」(p100)という態度で相談に乗るのだが、その実、相談者の嘘を冷静に分析していたとは、晴川さんも人が悪い。
辻堂さんが、本書新刊エッセイで述べている。
……明確にコロナを作品のテーマに据えたのは本作が初めてである。市役所に設けられた相談室に心の不調を抱えた人々が訪れる、という設定は、コロナ禍で生活を送る中で自然と思いついた。
この三年で、二回の出産を経験した。入院中は家族との面会が一切禁止だった。
ファミリーウエディング:出産後に行う、新郎新婦の子どもと一緒に挙げる結婚式で「ファミリー婚」。
「授かり婚」という言葉もあったが、わかりやすく「できちゃった婚」と言うべきだ!