一色さゆり著『神の値段』(宝島社文庫Cい-13-1、2017年1月25日宝島社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
マスコミはおろか関係者すら姿を知らない現代芸術家、川田無名。ある日、唯一無名の正体を知り、世界中で評価される彼の作品を発表してきた画廊経営者の唯子が何者かに殺されてしまう。犯人もわからず、無名の居所も知らない唯子のアシスタントの佐和子は、六億円を超えるとされる無名の傑作を守れるのか――。美術市場の光と影を描く、『このミス』大賞受賞のアート・サスペンスの新機軸。
昭和40年以降メディアにも決して姿を見せず、生死すらはっきりと明かされていなかった世界的コンセプチュアル・アーティスト・河原温の訃報を聞いたことから着想を得て執筆された。
謎の世界的巨匠美術家・川田無名を売り出したギャラリーのオーナー永井唯子に誘われて勤務する田中佐和子が主人公。無名は唯子とアトリエ統括の土門以外の誰にも姿を見せず、死んでいるとの噂もある。
ある日、無名が1959年と若かった時に制作した巨大な作品がギャラリーに運び込まれる。オークションに出品されれば10億円は下らないと思われる作品だった。唯子はこの作品がここにあることは、誰にも口外しないように佐和子らに命ずる。パーティーで佐和子は、唯子の夫・佐伯に初めて会う。
唯子は品川にある倉庫で倒れているのが発見され、病院で息を引き取った。佐伯が、唯子が抱えていた仕事は当面佐和子が引き継いて欲しいという。佐和子は後輩・松井とともに、唯子が倒れていた倉庫へ行き、すべての作品はなくなっていないことを確認したが、位置は変わっていた。
相続者となった佐伯は1959年の作品を、唯子と長い付き合いがあったワン・ラディという従来多くの作品を買ってもっている有名コレクターに売ることにする。刑事が無名を重要参考人として捜査しているが行方は不明のままだ。師戸に呼ばれて、佐和子と佐伯が、深夜にアトリエへ行くと、無名からのメールに記された数字とアルファベットを解読することにより、これまで作品を制作してきたという。
一色さゆり(いっしき・さゆり)
1988年、京都府生まれ。東京藝術大学芸術学科卒業ののち、香港中文大学大学院美術研究科修了。
第14回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞を受賞し、『神の値段』(宝島社)にて2016年にデビュー。
他、『嘘をつく器 死の曜変天目』『骨董探偵 馬酔木泉(あしびいずみ)の事件ファイル』『絵に隠された記憶 熊沢アート心療所の謎解きカルテ』
田中佐和子:唯子のアシスタントになって3年目。
川田無名(かわた・むめい):インクアートの美術家。1939年生まれ。惟子と土門以外には顔を知られていない。死んでいるとの噂もある。
永井唯子(ながい・ゆいこ):ギャラリーのオーナー。無名と親しく売り出した。佐和子の上司。美女。
佐伯章介:唯子の別居中の夫。フィナンシャル・アドバイザー。
土門正男:アトリエを統括するディレクター。無名を知っている。
松井:佐和子の後輩。ゲイ。昨年パリの美大を卒業。
師戸(もろと):作品制作を行う最ベテラン職人。
浦:ベテランの輸送業者。
真里子:唯子に反感を持つ別のギャラリーのオーナー。
ジョシュア:ニューヨークのギャラリスト。唯子と共に無名を売り出していた。
ワン・ラディ:コレクター。中国人の大金持ち。
沼田:コレクター。
唐木田一郎(からきだ・いちろう):無名のことをよく知る弁護士。
金谷:若い女性刑事。
丸橋:50代後半の刑事。
アートのマーケットには二つある。
- プライマリー・マーケット:現存する作家から新作を直接預かり、売り出し方を考え、代理として売る。提携ギャラリーに委託することはある。仕入れ値を支払う相手は作家本人。
- セカンダリー・マーケット:二次であれ三次であれ、作品を転売する。作家からではなく、別のコレクターや画廊から仕入れて転売するので、仕入れ値は作家には支払われない。骨董品やオールドマスターの市場であるが、現存作家の作品を扱いながら、作家と直接仕事をしない場合もある。