荻原浩著『ストロベリーライフ』(毎日文庫お1-1、2019年11月15日毎日新聞出版発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
農業なんてかっこ悪いと思っていた――父親が倒れ、やむなく家業の農業を手伝う恵介。両親は知らぬ間にイチゴの栽培にも手を出していた。農家を継ぐ気はないが目の前のイチゴをほうっておくことはできない。一方、東京においてきた「農業反対」の妻との間にミゾができ始め……富士山麓のイチゴ農家を舞台に、これからの農業、家族の姿をみずみずしく描き出す感動作。
『海の見える理髪店』で直木賞受賞後第一作の長編小説。
望月恵介はいくつかの賞を受賞した腕に自信のグラフィックデザイナー。フリーになって最初は好調で収入も激増したが、やがて仕事がなかなか入ってこなくなって、悩んでいた。
トマト農家を継がないと言って疎遠になっていた父が脳こうそくで倒れ入院したと母から電話が入る。妻・美月と、息子・銀河を連れて病院に駆けつける。命は助かったが、父は半身不随、言語不明瞭で当分リハビリ。
働き者の母は腰が悪いのに、頑固に農業を続けそう。ハウスのイチゴをそのままにするわけにもいかず、恵介は妻・美月を気にしながら実家の農業の手伝いをしばらく泊まり込みで手伝う。グラフィックデザイナーの仕事もしながら、東京の家と静岡の実家を行き来し、美月との関係にきしみが入る。
イチゴ栽培の奥深さ、経営の困難さの打ちのめされながら、恵介は……。
一方、家にめったに帰ってこなくなった恵介に対し、美月はパートをやめて、実入りの良い手のモデルに復帰する。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
誰でも考えるとおりの筋書きで、とくに推す点もないので、優れた作品とは言えないが、楽しく読める。
イチゴ栽培の細かいポイントまで要領よく説明しているので、変なところに興味を持って読みふけってしまった。
巻末に「あとがきにかえて おいしい苺の見つけ方」が5ページに渡って書いてある。
- 大きいものを選ぶ
- カタチは気にしない
- 鮮やかな緑色で反り返っているヘタ
- ヘタの下まで赤い
- いちばん甘いのは先っぽ
- 少し冷やして食べる
- 旬の旬は一月
良いストロベリーライフを。
幼稚園児・銀河が、昆虫図鑑に夢中で、東京っ子で実物におびえていたのが、昆虫取りに夢中で、突貫小僧(死語?)になるのが、ほほえましい。
恵介が作ったCMソングのサビのフレーズ(プロポーズの言葉?)が「いっしょに行こう、この世の涯(はて)まで」。著者は元コピーライターなのに、クサ過ぎない?
登場人物
望月恵介:フリーのグラフィックデザイナー。36歳。父が倒れ実家の農業を手伝う。
望月美月:恵介の妻。かって手専門のパーツモデルをやっていた。実家で農業に励む恵介を留めたい。
望月銀河:恵介と美月の子供。幼稚園児。
父・喜一:恵介の父。静岡でトマトからイチゴ農家へ。脳梗塞で半身不随、言語不明瞭になる。母・絹江は93歳。
母・房代:恵介の母。農業を手伝う。腰が悪いが働き者。
剛子:恵介の8歳上の長姉。望月家の長女。夫は近くの信用金庫勤務の佐野。長男高一の大輝、次男中二拓海。
進子:恵介の次姉。富士山麓に工房を持つ売れないガラス作家。独身。
誠子:恵介の末姉。名古屋在住。夫はIT会社を経営すう雅也。一人娘は七歳の陽菜。
ガス・菅原豪:恵介の中学のいじめられっ子だった同級生。菅原農場の副社長。