アントニイ・バークリー著、高橋泰邦訳『毒入りチョコレート事件』(2009年11月13日新版初版、東京創元社発行)を読んだ。
本書見開きにはこうある。
ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」の面々は、手掛かりがわずかしかなく、迷宮入り寸前の難事件に挑むことになった。被害者は、新製品という触れ込みのチョコレートを試食したベンディックス夫妻。チョコレートには毒物が仕込まれており、夫人は死亡、ベンディックスは一命を取り留めた。しかし、そのチョコレートは知人のペンファーザー卿に送られたもので、ベンディックスはそれを譲り受けただけだったのだ。会員たちは独自に調査を重ね、自慢の頭脳を駆使した推理を、一晩ずつ披露する――。誰がこの推理合戦に勝利するのか。本格ミステリ史上に燦然と輝く、傑作長編。
杉江松恋氏の本書巻末の解説によれば、
『毒入りチョコレート事件』の優れた点は、この「多重解決」という小説のありようを読者に呈示したことにある。……
ところが(著者)バークリーは、犯人を推理するという推理の工程自体を特権的なものとして採り上げた。実際の犯人が誰であろうと(極言すれば犯人なぞいなくとも)推理は可能であるという可能性を示したわけですね、これがミステリという小説ジャンルを、純粋な知的遊戯として解放するための第一歩となったのである。
事件の発端は、ロンドンのクラブに、女癖の悪い男爵であるユーステス・ペンファーザー卿宛ての一箱の小包が届けられた。送り主はメイスン父子商会で、新製品のチョコレート・ボンボンの詰め合わせをご試食いただきたいと手紙が添えられていた。
同席していた実業家のグレアム・ベンディックスが、卿がいらないというチョコレートの箱をもらって帰宅し、摘まんだが舌を刺す味がして2個で止めた。妻・ジョウンは7個食べ、死亡した。警察の調べではニトロベンゼンが注射されていた。
作家で探偵でもあるロジャー・シェリンガムが、会長を務める「犯罪研究会」の6名を前に新しい提案をする。警察が未解決のままお蔵入りさせた上述の毒殺事件について、メンバー6名が独自に推理、あるいは調査して、翌週毎日一人ずつ推理を発表し、推理合戦することを提案し、賛成が得られた。
そこで、スコットランド・ヤードのモレスビー首席警部から事件について報告を受ける。
提出された推理は、警察と合わせると、計8件となる。
本書は、1971年10月22日初版、2002年3月8日27版、2009年11月13日新版初版発行。
英国で1929年に発表。日本では「新青年」の1934年8月号に「毒殺六人賦」の題名で掲載。
アントニイ・バークリー/フランシス・アイルズ
1893年イギリスのハートフォードシャー生まれ。第一次世界大戦に従軍後、ユーモア作家として〈パンチ〉誌で活躍。
「?」名義で『レイトン・コートの謎』を著して以降、『毒入りチョコレート事件』『第二の銃声』『ジャンピング・ジェニイ』など、従来の探偵小説に対する批判を織り交ぜた実験精神あふれる作品を発表。英国本格ミステリ黄金期を代表する作家としてその地位を不動のものとした。
他の作品に、フランシス・アイルズ名義で発表したサスペンス『殺意』『レディに捧げる殺人物語』などがある。1971年没。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの? 最大は五つ星)
ミステリー小説の歴史の一つとして読んで置かねばと我慢して読んだが、次々に展開される推理は、前の推理の欠陥を指摘し、勝者を誇るが、次の者に凹まされるという、多重構造で、話しは行ったり来たりで、もどかしい。
しかも、前の椎理者を傷つけないようにと、もってまわったバカ丁寧な遠回しな表現で、これが結果的に慇懃無礼な英国ハイソサエティの長演説となるので、うんざり。
TV観戦、昼寝、散歩等々で多忙な私は、俺はそんなに暇じゃないんだと、イライラしてしまった。古き良き時代の英国の古典ですね。
犯罪研究会メンバー
- ロジャー・シェリンガム:犯罪研究会の会長、作家。バークリーのシリーズ探偵のうちの一人。
- チャールズ・ワイルドマン卿:刑事弁護士
- フィールダー・フレミング:劇作家
- モートン・ハロゲイト・ブラッドレー:推理作家
- アリシア・ダマーズ:小説家
- アンブローズ・チタウィック:バークリーのシリーズ探偵のうちの一人