hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

織守きょうや『花束は毒』を読む

2023年06月07日 | 読書2

 

織守(おりがみ)きょうや著『花束は毒』(2021年7月30日)を読んだ。

 

文春BOOKSの作品紹介

罠、また罠。100%騙される、戦慄ミステリー!

「結婚をやめろ」との手紙に怯える元医学生の真壁。
彼には、脅迫者を追及できない理由があった。
そんな真壁を助けたい木瀬は、探偵に調査を依頼する。
探偵・北見理花と木瀬の出会いは中学時代。
彼女は探偵見習いを自称して生徒たちの依頼を請け負う少女だった。

――あの時、彼女がもたらした「解決」は今も僕の心に棘を残している。
大人になった今度こそ、僕は違う結果を出せるだろうか……。

背筋が寒くなる真相に、ラストに残る深い問いかけに、読者からの悲鳴と称賛続出の傑作ミステリー。

 

木瀬芳樹:法学部の大学生。正義感が強い。中学生のとき、医学部生だった真壁が家庭教師だった。

真壁研一:医者の息子、成績優秀、男前の人気者だったが、事件の被疑者となり医学部を辞めた。当時の恋人は高村真秀(まほ)。今はインテリアショップの店長。かなみとの結婚を控えた彼に脅迫状が届き、……。

北見理花:叔父の探偵事務所に勤める調査員。木瀬の中学の1年先輩で、当時から素人探偵だった。

 

本書は書下ろし。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

冤罪を主張する彼は、なぜ示談したのか? 犯罪者でなければ人犯人は? 脅迫者は誰で、何が目的なのか? 調書にアクセスできない探偵は、被害者は誰かもわからない。

真壁を信じる木瀬と、探偵の北見は、あの手この手で徐々に真相に迫っていく。

そして、衝撃のラスト! 木瀬の選択は?

 

 

織守きょうや(おりがみ・きょうや)

1980年ロンドン生まれ。国際基督教大学卒、早稲田大学法科大学院修了。

2012年『霊感検定』で第14回講談社BOX新人賞を受賞しデビュー。
弁護士として働きながら小説を執筆。
2015年『記憶屋』で第22回日本ホラー小説大賞読者賞を受賞。シリーズは累計60万部突破。

他、『少女は鳥籠で眠らない』、『301号の聖者』、『ただし、無音に限り』、『響野怪談』、『朝焼けにファンファーレ』、『幻視者の曇り空』など。

 

 

蛇足

本書の最大の読みどころは、衝撃のラストだ。

単純ともいえる正義感を持つ木瀬は中学時代に北見による解決策に「正しい解決なのか?」と疑問を持ったまま大人になった。この事件では、今度こそ正しい解決に進みたいともがいていたのだが、結局、彼が選択した結論はいかに?

著者はインタビューで、木瀬の最後の選択について以下のように答えている。

「この選択については“自分の中ではこっち”という答えが決まっていたのですが、いざ書き上げたらどちらを選ぶべきか揺らいでしまって。刊行後もまだ結論が出ないなんて初めてです。でも、この選択がインパクトを残すという感想を沢山いただくので、今作については自分でも迷うくらいのラストで良かったのかなと思います」

 

 

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ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』を読む

2023年06月05日 | 読書2

 

ディーリア・オーエンズ著、友廣純訳『ザリガニの鳴くところ』(2020年3月15日早川書房発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

全米500万部突破、感動と驚異のベストセラー

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。

 

【2021年本屋大賞 翻訳小説部門第1位!】全世界1500万部突破! 2019年・2020年アメリカで一番売れた小説。

原書名:WHERE THE CRAWDADS SING。 2022年同名で映画化されている。

 

作品の舞台・カイアの生きる湿地は架空の村なのだが、ヴァージニア州とカロライナ州をまたぐ海沿いの湿地ディズマル湿地がモデルとみられる。
タイトルの「ザリガニが鳴くところ」というのは、湿地の特に奥まった、生き物たちが自然のままで生きている、隠れるに適した場所を指す。

 

物語は、まだ人種差別があからさまだった1969年、米国南部の湿地で金持ちの息子で人気者のチェイスの死体が発見されるところから始まる。すぐに村人の疑惑の目は、貧乏白人が暮らす湿地に住み、野蛮な“湿地の少女”と呼ばれるカイアに向けられる。

カイア一家は、父親の暴力から逃れて、母親が家を去り、上の兄と二人の姉が去った。父とすぐ上の兄・ジョディと末っ子のカイアだけが残された。ジョディもひどく殴られて去り、さいごに父が行方不明となり、7歳の彼女は湿地のボロ小屋に一人置き去りにされた。学校にも通えず、たった一人で未開の湿地に生きてきた。味方は、燃料店を営むジャンピン・メイベル黒人夫婦と、親切に読み書きを教えてくれたジョディの親友のテイトだけだった。

 

話は、殺人の捜査が行われる1969年と、カイアの成長譚1952年以降が交互に語られる。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

本作品は、チェイスを殺したのは誰かというフーダニットのミステリーであり、湿地に一人で住む少女・カイアの成長譚である。しかし、私には何より、濃密な緑の湿地、ひっそりと息づく無数の命といった米国南部の自然を野生動物学者が描いた作品に思えた。

 

読む進めるうちに、たった一人でなんとか未開の湿地で暮らすカイアの身になって読んでいる自分に気付く。湿地の厚みのある自然と、鳥など多くの動物たちがカイアを守り、支え、育んできて、その中でカイアが少女から、大人の女性になっていく。

 

これだけ誉めておいて三つ星にしたのは、500頁を越える大部であることが原因。70歳の著者の処女作がどうしてこんなに大部なのか? 面白く読めるのだが、くたびれて、根気が続かない。

 

 

ディーリア・オーエンズ Delis Owens

ジョージア州出身の動物学者、小説家。ジョージア大学で動物学の学士号を、カリフォルニア大学デイヴィス校で動物行動学の博士号を取得。ボツワナのカラハリ砂漠でフィールドワークを行ない、その経験を記したノンフィクション『カラハリ──アフリカ最後の野生に暮らす』(マーク・オーエンズとの共著、1984年)(早川書房刊)が世界的ベストセラーとなる。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミ、湿地の保全活動を行っている。70歳で執筆した本作が初めての小説である。

 

友廣純(ともひろ・じゅん)

立教大学大学院文学研究科博士課程中退。英米文学翻訳家。

訳書は、A・G・リドルの『タイタン・プロジェクト』『人類再生戦線』『第二進化』、マシュー・グイン『解剖迷宮』、ワイリー・キャッシュ『約束の道』など。

 

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南杏子『いのちの十字路』を読む

2023年06月03日 | 読書2

 

南杏子著いのちの十字路』(2023年4月5日幻冬舎発行)を読んだ。

 

幻冬舎の紹介文

次は、絶対に同じ後悔をしない。
明日からも、患者さんのために生きる。
悩んでばかりで、自信が持てない、訪問診療所の新米医師・野呂聖二。
コロナ禍、在宅介護の現場で奮闘する彼は、ヤングケアラーの過去を封印していた。
吉永小百合主演映画『いのちの停車場』原作続編!
老老介護、ヤングケアラー、8050問題……
介護の現場で奮闘する若き医師とその仲間たち。


愛おしい人を、最後まで愛おしく思って生きられるように――。

医師国家試験に合格し、野呂は金沢のまほろば診療所に戻ってきた。娘の手を借りず一人で人生を全うしたい母。母の介護と仕事の両立に苦しむ一人息子。末期癌の技能実習生。妻の認知症を受け入れられない夫。体が不自由な母の世話をする中二女子。……それぞれの家庭の事情に寄り添おうとするけれど、不甲斐ない思いをするばかりの野呂には、介護していた祖母を最後に“見放してしまった”という後悔があった。

 

前作「いのちの停車場」で、医師国家試験に2回失敗し、尊敬する白石医師と共に金沢の訪問診療所でドライバー雑用係のアルバイトをしていた野呂聖二。この本では、その後の再チャレンジで医師国家試験に合格し、新米医師としてそのまほろば診療所に戻って来た新人医師・野呂が主人公だ。

 

6章の連作短編集。

 

野呂聖二:27歳で医師国家試験に合格し2年の研修医経験後、まほろば診療所へ戻ってきた。

仙川徹:まほろば診療所院長。67歳。

白石沙和子:加賀大学医学部特任教授で、附属病院で緊急医療の陣頭指揮中。診療所には時々やってくる。65歳。

星野麻世:看護師。29歳。

玉置亮子:事務。40歳

 

第一章 水引の母

一人暮らしの水引アーティストの大元露子85歳はコロナ禍で教室も開けず、意欲をなくすが、長女の美沙子との同居を拒否。オンライン教室開催で元気になるが、「隠れた処方」で……。

 

第二章 ゴリの家

母・岩間七栄が認知症で、一日50回も電話してくるし、生活も昼夜逆転していて、宅配便ドライバーの一人息子・哲也は仕事にならない。しかし、一方では介護サービスの申し込みには踏み切れないし、施設はどこも満員。哲也は、水槽で石の上でじっとしているゴリを飼っている。哲也はナイフを持って母を追いかける警察沙汰を起こし、結局、母は特養に入れることになった。ゴリ押しの疑惑が?

 

第三章 シャチョウの笑顔

インドネシアからの技能実習生が末期の胃がんと診断された。彼は帰国しないと言うが、家族に会わなくて良いのか? 訪ねて来た恋人のためなのか? 彼は、トラジャの地では「人は死ぬために生きている」と言う。 謎は死後にでた新聞記事で明らかになった。

 

第四章 正月の待ち人

大腸がんでストーマ(人口肛門)を日常的に使っている(オストメイト)福田信彦は、認知症の妻の美雪の介護に懸命だった。 「妻は出張が多い私のために家を守ってくれました。妻のことは私が責任を持って最後まで看ます」 「妻の介護なんてものは、つらくも何ともない」。 それでも時にイライラしてしまう。共倒れを防ぐために……。

 

第五章 レトルトカレーの頃

40歳でシングルマザーになり、43歳で脳梗塞により左半身麻痺になった中村久仁子には、陽菜と蓮の子供がいた。頼んだヘルパーは母親の食事は作るが、子供たちの分は制度上、作ることができない。ヤングケアラーの陽菜は「困っていることは何もありません。家族の世話をするのは当たり前だし…」と、かっての野呂のように答えた。

 

第六章 バカンスの夢路

脳梗塞を起こした祖母を介護していた母が、兄が死んで心を病み、介護は医学部6年生で国家試験を控えた聖二の肩にかかった。

パーキンソン病の松浪茂次と、心不全を抱える志乃の夫妻、老々介護の行く末は……。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

登場人物は類型的で、話もニュースなどでよく聞く内容に留まっているので、文学作品としての出来栄えは「三つ星」だろう。しかし、読んでみれば、訪問介護する現場の実情はひしひしと身に迫る。ニュースで知る深さではない。

 

介護する人のやらなければという心と、満足に介護できず、自分自身がやりたいことができないジレンマ。介護人の心身の健康、気分転換が大切なことを実感できる。

 

 

南杏子(みなみ・きょうこ)の略歴と既読本リスト

 

 

以下、メモ

 

「歯医者さんに歯を抜いてもらうとき、麻酔を使ったことはありませんか? モルヒネで癌のくるしさを取らないというのは、麻酔なしで抜歯するようなものですよ」

 

「明日ありと思う心の仇桜 夜半(よわ)に嵐の吹かぬものかは」

 

腹水は、癌に侵された患部から水分が漏れ出して大量に溜まる。特殊な針を刺して水を外に出すことはできるが、またすぐに溜まってしまう。こうなると、余命は幾ばくもない。

 

ヤングケアラーは自覚がないことが最大の問題。誰かにとって“いい子”でも、自分にとって“いい子”かどうか、考えなきゃ。

 

「蓮の台(うてな)の半座を分かつ」 極楽浄土に生まれ変わった人が座る蓮華(れんげ)の座を二人で分け合う。すなわち、夫婦が死んでからも、なかむつまじくする。

 

「湯涌なる 山ふところの 小春日に 眼閉ぢ死なむと きみのいふなり」 夢二が恋人の彦乃と湯涌温泉で過ごした日々を詠んだもので、こんな幸せな日はもう二度と来ないのではないかしら。ならばいっそこのまま死んでしまいたい。

 

 

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加藤秀俊『九十歳のラブレター』を読む

2023年06月01日 | 読書2

加藤秀俊著『九十歳のラブレター』(2021年6月25日新潮社発行)を読んだ。

 

新潮社の紹介

ある朝、あなたは突然逝った――。小学校の同級生であったあなたと結婚して六十余年、戦争体験、戦後間もなくのアメリカでの新婚生活、京都での家作り、世界中への旅、お互いの老化……たくさんの〈人生の物語〉を共有してきたあなたの死で、ぼくの人生は根底から変わってしまった。老碩学が慟哭を抑えて綴る愛惜の賦。

 

 

この本は、戦後日本の代表的な知識人の一人、『社会学』の権威で、『整理学』など何冊ものベストセラーを出してきた加藤秀俊の「ぼく」がすでにこの世界にいない「あなた」に向けて綴った1937年から2019年9月16日までの約80年にわたるラブレターなのだ。

 

2019年9月16日の朝8時、「あなた」を起こしに行った「ぼく」は、既に硬直していた「あなた」を発見した。

 

名門校の港区立青南小学校に入学した「ぼく」と「あなた」は、男子同士の品定めに登場する「あなた」と、級長である「ぼく」をぼんやりと認識しながら話を交わすこともなく卒業した。
「ぼく」は府立六中(新宿高校)から陸軍幼年学校に入学した。「あなた」は勤労動員で旋盤工として働いていた。

 

戦後、現一橋大学生になっていた「ぼく」は井の頭線・下北沢駅のホームで青山学院に通う「あなた」を見かけて、声をかけ、一方的ともいえる交際が始まった。

 

1952年の死者も出た「血のメーデー事件」、全学連の役員を押しつけられていた「ぼく」はデモ隊の先頭に立っていた。武力衝突となり現場から逃げだした「ぼく」は、逃げている「あなた」を見かけた。中学校の英語の教師になっていた「あなた」は日教組の組合員として動員されていたのだ。二人は手をにぎりしめ、有楽町から銀座方面へ走った。

 

「ぼく」はようやく京大の助手に任用されたが1年でハーバード大学のセミナーに参加し、そこで助教授だったキッシンジャーからの推薦で留学することになった。そこで結婚することにして、日本に居た「あなた」が婚姻届けを出し、単身、貨客船でロサンジェルスに渡り、飛行機を乗り継いでボストンまでやってきた。

 

 

本書は書下ろし。

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

駅のホームでの約10年ぶりの偶然の再会、過激なデモから逃げる時の偶然の遭遇など、本人達には奇跡でも、読む方は、「はいはい、それで?」という話だ。しかし、貨客船しかない時代に一人で米国東海岸まで行った「あなた」の勇気にはびっくり。

 

選ばれし人の話だが、年老いて二人暮らしになったときの話がほほえましく、参考になる。例えば、認知的な行動があっても、「ニンチだ」と指摘して笑いあったり、介護は大変というより楽しいことと思ったり、二人同時に死ねたらいいのにねと言いあったりする。

 

 

加藤秀俊(かとう・ひでとし)

1930年、東京渋谷生まれ。社会学博士。
一橋大学卒業。京都大学、スタンフォード大学、ハワイ大学、学習院大学などで教鞭をとる。
その後、国際交流基金日本語国際センター所長、日本育英会会長などをつとめる。また梅棹忠夫、小松左京らと「未来学研究会」を結成し、大阪万博のブレーンともなった。
『加藤秀俊著作集(全12巻)』『アメリカの小さな町から』『暮しの思想』『メディアの発生 聖と俗をむすぶもの』『わが師わが友』など著書多数
訳書にリースマン『孤独な群衆』、ウォルフェンスタイン&ライツ『映画の心理学』(加藤隆江との共訳)などがある。

 

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