「当店のマジックショーは無料ですが、おひとり様800円以上のご注文をお願いします」
とあった。
当ブログの読者には説明不要だが、あんでるせんのマジックは、あくまでも「マスターの余興」である。喫茶店に入ったら、たまたまマスターがマジックを行っていた、というシチュエーションなので、おカネは取らない。だから注文はコーヒー1杯だけでもよく、事実私は飲み物だけで済ませたことが何度もある。
しかし回数を重ねるにつれ、これだけのマジックを見て500円程度の代金では申し訳なく思い、食事もするようになった。
とはいうものの、こうして「800円」という明確な数字を掲示されてしまうと、抵抗を覚えてしまう。
もっとも、今年も私は食事と飲み物を摂る予定だったので、問題はなかった。私はビーフカレー(810円)とアメリカンコーヒー(540円)を注文する。カレーの810円は半端な数字だが、これは750円に消費税が加算されたものである。税率が4月にアップして、本体価格も上がったようだ。
でも、コーヒー1杯が2,000円でも、私はお邪魔すると思う。
ビーフカレーはご飯が緩かった。昨年もそうだったが、もう少し固めでもいいと思う。
店内には、芸能人や文化人、スポーツ選手などのポラロイド写真やチェキ写真が貼られている。ちょっと見に行ってみるが、多士済々だ。有名なところでは藤岡弘、で、8回も来たという。当ブログの読者なら誰もが知っている、有名女性のそれもある。私はニヤニヤしてしまう。
マジックショーは入店後2時間以上経って始まるので、まだ時間がある。ほかにやることはいっぱいありそうだが、意外とやることがない。結局、ボーッとするのみである。
奥さんと思しき女性が現れ、先に会計となる。これから2時間余の不思議体験を思えば、1,350円は安い。
午後7時半を数分過ぎ、いよいよマジックショーの始まりである。マスターはカウンターの向こう側でパフォーマンスを行い、私たちはこちら側で見る。よって、移動をしなければならない。私の整理番号は「8」で、この数字が重要である。客の一人が番号の書かれたカードを引き、その数字に当たった人がマジックのお相手をすることになるからだ。よって、立ち位置はほとんど関係ない。
ちなみに席順は、以下のごとくであった。
カウンター
女-女 女-女 女-女
男 私 女-女 男-女
男-女-女 男-女-女
最前列の人はイスに座り、その後方は立つ。さらにその後方はイスの上に長板を置き、立つ。ちょうど雛壇状になる感じだ。
満を持して、丹波義隆似のマスターが登場する。わーい、パチパチパチ。
マスターが挨拶代わりに、客から指輪を所望する。それをごちゃごちゃやっていると、指輪が消えた。
マスターがニヤッと笑って、黒いセーターの下から、ネックレスを出す。そこには先ほどの指輪がくくられていた――。
彼がヒサムラ・ショウエイ、その人である。彼のマジックを見に、世界中から人が集まる。もし長崎県で室谷由紀女流初段の指導対局があり、行けば受けられるとしても、私は行かない。つまりここのマジックショーは、そうまでして足を運ばせる魅力があるということだ。
以下マジックは続くのだが、詳らかに書いても意味がないと思われる。実際に行って、間近で見るのが一番だ。
ただ、実際行くとなると、難しい。やはり長崎までは遠いし、おカネもかかる。同行者も簡単には見つからないだろう。結局、行く人は行くし、行かない人は行かないのだ。
マジックは快調に進む。
「毎回同じネタだと飽きられちゃうから、新ネタを入れてますよ」
マスターがカウンター席の女性に言う。彼女らは、相当な常連らしい。「年に一度」の私はどうなのだろう。
後方は若い女性が多いので、黄色い歓声がしょっちゅう沸く。それがまた楽しい。
マスターがおカネを所望する。壱万円札から5円玉まで一通りである。私は全種類をジャケットのポケットに用意しているが、積極的には出さない。初顔の人が出せばいい。それでも全種類が出なかったので、私が千円札と50円玉を出した。
しばらくして、「千円札を出したのはどなたですか?」という。私が手を挙げると、名前を聞かれた。
「じゃあ、その名前をこのお札に書いてください」
私が「かずポン!」と書き、このお札は世界にひとつとなった。
それをマスターがお札入れに入れる。傍らにはコーヒー豆の入った缶がある。それをバラまくと、中から袋に包まれたあるものが出てきた。それを開くと、さっきのお札だった――!!
う~む、やっぱり、実際に見るのが一番興奮すると思う。
…と、ここまで書いてきて、ただのマジックショーじゃないか、という人がいると思う。私が初めてここを訪れたのは1999年だが、その後、セロとか前田知弘とか。テーブルマジックの旗手が相次いで現れ、マスターのマジックも、以前ほどのインパクトはなくなった。
しかし中には、マジックでは説明できないネタもあるのだ。
だが、このマジックショーの本質は、別のところにある。マスターがマジックの合間にしゃべる人生論みたいなもの、これが客の心を打つのだ。
その代表的なものが「自分の10年後を思い浮かべれば、現在の自分のやることが見えてくる」というものだ。
これを私は15年前に聞いていながら、何の努力もしてこなかった。そしてこのザマである。結局、私が堕落しているのだ。
カウンターの女性がカードを引くと、「8」だった。
8!? 私じゃないか!!
「あなたは結婚されてますか?」
とマスターが聞く。
「いえ」
いい歳をして恥ずかしいが、正直に答えるよりない。
「あなたは将来、結婚しますよ」
マスターは散文的に、言った。
(つづく)
とあった。
当ブログの読者には説明不要だが、あんでるせんのマジックは、あくまでも「マスターの余興」である。喫茶店に入ったら、たまたまマスターがマジックを行っていた、というシチュエーションなので、おカネは取らない。だから注文はコーヒー1杯だけでもよく、事実私は飲み物だけで済ませたことが何度もある。
しかし回数を重ねるにつれ、これだけのマジックを見て500円程度の代金では申し訳なく思い、食事もするようになった。
とはいうものの、こうして「800円」という明確な数字を掲示されてしまうと、抵抗を覚えてしまう。
もっとも、今年も私は食事と飲み物を摂る予定だったので、問題はなかった。私はビーフカレー(810円)とアメリカンコーヒー(540円)を注文する。カレーの810円は半端な数字だが、これは750円に消費税が加算されたものである。税率が4月にアップして、本体価格も上がったようだ。
でも、コーヒー1杯が2,000円でも、私はお邪魔すると思う。
ビーフカレーはご飯が緩かった。昨年もそうだったが、もう少し固めでもいいと思う。
店内には、芸能人や文化人、スポーツ選手などのポラロイド写真やチェキ写真が貼られている。ちょっと見に行ってみるが、多士済々だ。有名なところでは藤岡弘、で、8回も来たという。当ブログの読者なら誰もが知っている、有名女性のそれもある。私はニヤニヤしてしまう。
マジックショーは入店後2時間以上経って始まるので、まだ時間がある。ほかにやることはいっぱいありそうだが、意外とやることがない。結局、ボーッとするのみである。
奥さんと思しき女性が現れ、先に会計となる。これから2時間余の不思議体験を思えば、1,350円は安い。
午後7時半を数分過ぎ、いよいよマジックショーの始まりである。マスターはカウンターの向こう側でパフォーマンスを行い、私たちはこちら側で見る。よって、移動をしなければならない。私の整理番号は「8」で、この数字が重要である。客の一人が番号の書かれたカードを引き、その数字に当たった人がマジックのお相手をすることになるからだ。よって、立ち位置はほとんど関係ない。
ちなみに席順は、以下のごとくであった。
カウンター
女-女 女-女 女-女
男 私 女-女 男-女
男-女-女 男-女-女
最前列の人はイスに座り、その後方は立つ。さらにその後方はイスの上に長板を置き、立つ。ちょうど雛壇状になる感じだ。
満を持して、丹波義隆似のマスターが登場する。わーい、パチパチパチ。
マスターが挨拶代わりに、客から指輪を所望する。それをごちゃごちゃやっていると、指輪が消えた。
マスターがニヤッと笑って、黒いセーターの下から、ネックレスを出す。そこには先ほどの指輪がくくられていた――。
彼がヒサムラ・ショウエイ、その人である。彼のマジックを見に、世界中から人が集まる。もし長崎県で室谷由紀女流初段の指導対局があり、行けば受けられるとしても、私は行かない。つまりここのマジックショーは、そうまでして足を運ばせる魅力があるということだ。
以下マジックは続くのだが、詳らかに書いても意味がないと思われる。実際に行って、間近で見るのが一番だ。
ただ、実際行くとなると、難しい。やはり長崎までは遠いし、おカネもかかる。同行者も簡単には見つからないだろう。結局、行く人は行くし、行かない人は行かないのだ。
マジックは快調に進む。
「毎回同じネタだと飽きられちゃうから、新ネタを入れてますよ」
マスターがカウンター席の女性に言う。彼女らは、相当な常連らしい。「年に一度」の私はどうなのだろう。
後方は若い女性が多いので、黄色い歓声がしょっちゅう沸く。それがまた楽しい。
マスターがおカネを所望する。壱万円札から5円玉まで一通りである。私は全種類をジャケットのポケットに用意しているが、積極的には出さない。初顔の人が出せばいい。それでも全種類が出なかったので、私が千円札と50円玉を出した。
しばらくして、「千円札を出したのはどなたですか?」という。私が手を挙げると、名前を聞かれた。
「じゃあ、その名前をこのお札に書いてください」
私が「かずポン!」と書き、このお札は世界にひとつとなった。
それをマスターがお札入れに入れる。傍らにはコーヒー豆の入った缶がある。それをバラまくと、中から袋に包まれたあるものが出てきた。それを開くと、さっきのお札だった――!!
う~む、やっぱり、実際に見るのが一番興奮すると思う。
…と、ここまで書いてきて、ただのマジックショーじゃないか、という人がいると思う。私が初めてここを訪れたのは1999年だが、その後、セロとか前田知弘とか。テーブルマジックの旗手が相次いで現れ、マスターのマジックも、以前ほどのインパクトはなくなった。
しかし中には、マジックでは説明できないネタもあるのだ。
だが、このマジックショーの本質は、別のところにある。マスターがマジックの合間にしゃべる人生論みたいなもの、これが客の心を打つのだ。
その代表的なものが「自分の10年後を思い浮かべれば、現在の自分のやることが見えてくる」というものだ。
これを私は15年前に聞いていながら、何の努力もしてこなかった。そしてこのザマである。結局、私が堕落しているのだ。
カウンターの女性がカードを引くと、「8」だった。
8!? 私じゃないか!!
「あなたは結婚されてますか?」
とマスターが聞く。
「いえ」
いい歳をして恥ずかしいが、正直に答えるよりない。
「あなたは将来、結婚しますよ」
マスターは散文的に、言った。
(つづく)