一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

四段新規定

2019-08-12 10:49:11 | 将棋雑記
7日、日本将棋連盟が興味深い発表をした。「女流棋士がプロ棋士編入試験に合格した場合、また女性奨励会員が四段の資格を得た場合の規定」を決定したのである。
要約すると、女流棋士がプロ棋士編入試験に合格した場合、女流棋戦の参加継続も可。
また、奨励会三段の女性が四段に昇段をした場合も、女流棋士への申請を行うことが出来る。
これは「四段」を勝ち取った女流棋士および女性奨励会員にとって朗報である。
それに関連するが、私は昨年7月23日に「四段と女流四冠」という題で記事を書いたので、それを再掲しておこう。


四段と女流四冠

第89期棋聖戦は豊島将之八段の奪取で幕を閉じたが、並行して第90期が始まっている。
その一次予選1回戦で里見香奈女流四冠が勝利し、2回戦で藤井聡太七段と対戦することになった。対局当日は大きな話題になるだろう。
ところで最近将棋ファンになった人は、怪訝に思ったかもしれない。
里見女流四冠は、奨励会を退会したんではないの? 男性棋戦に出られるの? と。
通常、奨励会員が退会したら、プロ(男性)棋戦には出られない。それを叶えるには、アマ大会に出場し好成績を収め、アマ選手枠で出るしかない。
だが里見女流四冠は、キンタマがないことが幸いした。すなわち女流棋士でもあるのだ。
男性棋戦のほとんどに女流棋士枠も設けられており、トップ何人かは出場できる。ただ、奨励会在籍者は原則選考外なので、彼女はいままで参加できなかったのだ。例えば前期棋聖戦では、香川愛生女流三段と伊藤沙恵女流二段が出場している。
里見女流四冠は3月に奨励会を退会したので、晴れて(?)男性棋戦に参加できるという、皮肉な現象が起こったわけだった。
ではここで、女流棋士の男性棋戦参加枠を記しておこう。

竜王戦…4
叡王戦…1
王位戦…2(女流王位含む)
王座戦…4
棋王戦…1(=女流名人)
王将戦…0
棋聖戦…2
朝日オープン…3
銀河戦…原則的に2
NHK杯…1(3人前後で予選)
新人王戦…4(26歳以下)
YAMADAチャレンジ杯…0
加古川清流戦…2

0から4人までさまざまだが、女流棋士のトップを張れば、10棋戦には参加できるのだ。NHK杯は女流予選があるが、それは男性プロだって本戦出場まで2~3勝しなければならないから、苦労は同じことだ。里見女流四冠は参加に何の障害もないから、最多で10棋戦に出場できる。

女流棋士が奨励会を抜けて四段になったとする。その瞬間、女流棋士の資格を喪う、と私は考えているがどうなのだろう。つまり、以後女流棋戦への参加はできない。本稿は、その前提で話を進める。
「四段」と「女流四冠」。双方の収入を検討してみよう。
まず、里見女流四冠が棋士四段になっても、順位戦C級2組を抜けるのは相当難しいと思う。
何しろC級2組の昇級枠は「3」である。毎年俊英若手棋士が4人生まれているのに、そのうちの1人は確実に昇級できないのだ。里見奨励会三段が三段リーグを抜けられなかったのに、C級2組を抜けられるわけがない。竜王ランキング戦6組も然りである。
つまり、彼女はC級2組以下で棋士人生を終える。
順位戦以外の対局料(賞金含む)が総計いくらになるか分からないが、こちらも勝ったり負けたりだとすると、どんなに甘く見積もっても、年度500万円には届かないだろう。
とすると、里見女流四冠は賞金500万円の女王か女流王座の獲得だけで、それを上回る計算になる。これは相当おいしい。しかも里見女流四冠は現在「女流王座」のほかに、「女流名人」「女流王将」「倉敷藤花」を持っている。これらの賞金だけで、相当な額になる。
加えて男性棋士ほどではないが、男性棋戦の対局料ももちろんある。対局時だって、座布団や脇息はふつうに出るし、待遇は棋士のそれとまったく変わらない。
言っちゃあなんだが、棋士になってくすぶるより、女流棋士でトップを張ったほうが、収入としてははるかに上になるのである。
問題は、ずぅっとトップを走り続けなければならないことだが、里見女流四冠の才能なら大丈夫、相当先まで安泰だ。大二冠のいずれかと、複数冠を保持できる。
要は鶏の頭か牛のしっぽか、という考えで、前者でいいではないか。
確かに、女性初の棋士四段になれば、歴史に名を残しただろう。だけど「奨励会三段第1号」だって立派な勲章で、棋史に里見香奈の名前は永遠に残る。

そしてこれはおまけだが、プレッシャーから解放されてのびのび指せば、プロ編入試験の規定だってクリアするかもしれない。これも大きい。
現在本人はそこまでの野心はないようだが、いざそのチャンスを獲得したら、行使する気になるかもしれない。
本人は奨励会退会時に相当落胆したようだが、男性会員に比べれば、相当恵まれている。里見女流四冠の未来は、当人が思っているより、はるかにバラ色なのである。


以上である。記事にも書いたが、四段の引き換えに女流棋士を廃業すると、女王や女流王座を持っていた場合、却って収入が低くなってしまう。これが四段昇段最大のジレンマだった。
今回の連盟規定はそのジレンマを払拭するもので、四段に近い女性は、安心して四段を目指せることになった。里見女流五冠は現在、編入試験受験には消極的だが、いざその権利を得れば考えも変わるだろうし、実際受験しそうな気がする。
問題は対局過多だ。里見女流五冠が編入試験に受かった場合、順位戦以外の男性棋戦もほとんど参戦している現状とほとんど変わらないが、西山奨励会三段の場合、さらに順位戦10局も指さねばならなくなる。となれば、女流棋戦は大三冠(清麗戦、マイナビ女子オープン、女流王座戦)のみの参戦となるかもしれない。
いずれにしても、話は四段昇段者が出てからである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする