一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

木村九段、会心の一局

2019-08-28 00:09:29 | 男性棋士
今期の王位戦七番勝負に木村一基九段が挑戦者になった時、40代のオジサンが名乗りを挙げたことに敬意を払いながらも、勝負としては残念な結果になると思った。だって相手は、若き名人・豊島将之王位だったから。
木村九段には悪いが、1番でも入ればいいほうだと思った。そして案の定、2局を終わって豊島王位の2連勝となった。
そんななか、竜王戦挑戦者決定戦に木村九段が勝ち上がった。だがこの時も、相手が悪いと思った。やはり豊島名人だったから。
世間ではこれを「十番勝負」と呼んだが、王位戦はせいぜい5局、竜王戦は2局で終わると思った。
王位戦は第3局で木村九段が快勝した。だが竜王戦は第1局を負け。やっぱりダメか……と私は落胆した。……ああそう、私は木村九段を応援している。だが願望と予想は違うのだ。
だが王位戦第4局、凄まじい泥仕合を木村九段が制し、2勝2敗のイーブンに戻し、大いに風向きが変わった。同じ星なら、追い着いたほうに勢いが出る。
そして竜王戦第2局である。豊島名人としてはこれを何としても勝って、王位戦に専念したい。いっぽう木村九段はこれに勝てば、竜王戦もイーブン。否、勢いではこちらでも上回ることができ、大いに展望が開ける。棋士人生、最大の一局を迎えたのである。
将棋は先番豊島名人の誘導で相掛かりになった。豊島名人は左右の桂を跳ね、早くも戦闘モードだ。むかし船戸陽子女流二段が、飛車角が飛び交う将棋はコワくて指せない、ともらしたことがあったが、船戸女流二段でなくても、確かに恐ろしいと思う。
豊島名人は猛烈に攻め、47手目▲1六角の王手。これに木村九段は△5四玉! 屋上に玉が脱出するという、木村玉が出現した(第1図)。

その後、木村玉は6四~7三と、するする移動する。ルパン三世を見るようではないか。
ここで豊島名人は▲8五桂打(第2図)としたが、▲8五桂と跳ねる手はなかったか。これに本譜と同じ△8二玉なら手駒に桂が温存されるので、▲7四桂以下、先手が勝勢となろう。

だが▲8五桂跳ねには△8四玉があるのだろう。私にはとても指せないが、木村九段なら涼しい顔で指す。
本譜に戻り、84手目△4五桂(第3図)が決め手。次に△7八飛成からの詰めろで、先手はとても受けにくい。私なら▲2七金とでも抵抗するが、それは△6九飛成▲同銀△1五角のような感じだろうか。

それにしても将棋は恐ろしい。第3図、駒割は先手の銀得なのだ。しかし先手は▲2三銀が遊び駒と化しているし、歩切れも痛い。いっぽう後手は適材適所で、遊び駒がほとんどない。将棋はすべての駒が働けば、多少駒損でも勝てる、という見本のような局面である。
第3図以下、▲4六歩△7八飛成▲同銀△3七銀まで、豊島名人の投了。いやはや木村九段、王位戦に続いて、竜王戦も追い着いた!
本局、全体を通じて木村ワールド全開で、五指に入る名局だったのではなかろうか。
これで「十番勝負」は9局以上行われることになり、私の予想は大はずれ。でもこのはずれはうれしい。
そしてこうなると、27日から行われている王位戦第5局が最大の山場だ。将棋は両者得意の角換わりになっているが、さて……。
コメント (3)
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