一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

カトモモに教えていただく(後編)

2019-08-23 00:31:40 | 女流棋士の指導対局会

第7図以下の指し手。△6二同金▲4二竜△6六桂▲8八玉(第8図)

加藤桃子女流三段がこちらに向き直り、すぐに△6二同金。私は▲4二竜と指す。
「そんな手がありましたか」
と加藤女流三段が絶句した。やはり見落としていたのだ。まあ▲6二銀成のところで気づいても、▲7二成銀が王手になるから、△6二同金▲4二竜は実現する。
ただこうなったらこうなったで、加藤女流三段は突撃してくるだろう。△5二桂なら被害は最少に抑えられるが、加藤女流三段がそんな愚手を指すはずがない。果たして加藤女流三段は、△6六桂ときた。
これには▲8八玉が読み筋だったが、▲6六同銀もあるか。だが△6六同馬▲6二竜△9九馬は下手が負けだろう。また▲6七玉は、△5八銀以下、相当怖い思いをする。
このわずかな逡巡に、加藤女流三段はあちらを向いた。3局目が終わり、Tok氏が勝ったようだ。
「だいぶ緩めてもらいましたか? なんか途中から、ずいぶん指し手がやさしくなった気がしたんですが……」
と謙遜している。加藤女流三段は笑って答えない。相当「天使モード」が入ったようだ。
W氏が、「残り時間5分です」と散文的に告げる。規定では、5分前に全対局終了だが、次はお昼休みということもあり、多少のアディショナルタイムは作ってくれるだろう。
私は予定通り▲8八玉と寄った。

第8図以下の指し手。△7八銀▲同金上△同桂成▲同玉△7七馬▲同玉(第9図)

まだ加藤女流三段の感想戦は続いている。私は前のめりになって考える。背後に大野八一雄七段の気配があったが、よく分からない。局面、ここで△5八銀がイヤなのだ。▲6二竜は△6九銀成で上手勝ち。下手は金を何枚持とうが、銀がなければ詰めろがかからない。
よって△5八銀には▲7九金と寄るが、△5九銀不成(参考A図)と突っ込まれてどうか。これは下手に勝ちがないように思われた。

加藤女流三段の指し手は△7八銀。これでも寄るのか?
▲同金上△同桂成▲同玉に、間髪入れず△7七馬! ここは△5八金(参考B図)もあるから意外だった。ああ、これは指導対局特有のやつだと思った。成算はないが時間もないので、結着をつけにきたのだ。ただしこれは下手にも勝機があり、正しく指せば下手が勝つ。実際私は渡部愛女流三段戦で、このパターンで緩めてもらったことがある。

私は▲7七同玉と取った。

第9図以下の指し手。△8七香成▲同玉△6八竜(第10図=仮想図)

ここで4局目の指導対局が終わり、やはり下手勝ち。それにしても、手練れの加藤女流三段に、こんなに下手が勝つものなのか? 何か忖度が入っているのだろうか。
局面、ここで△8七香成▲同玉△6八竜を仮想図として考える。ここで上手玉に即詰みがあれば話は早い。そして▲7一銀△同玉▲6二竜△同玉▲7四桂△同歩▲5一角△7一玉▲6二金△8二玉▲7二金△同玉▲6三馬△同玉▲6四香△5四玉▲4五銀打△4三玉▲3三金△5二玉▲4二金(参考C図)で詰め上げた。

だがよく見ると、▲7四桂捨てはいらない。それと、あまり綺麗な詰まし方に見えない。もう少しスッキリ詰む手順はないか?
加藤女流三段は向き直って、△8七香成。ここ△6一金打とする手は、指導対局ではない。
加藤女流三段は▲6七玉を読んでいたのか、▲同玉に一瞬手を止め、△6八竜と金を取った。

第10図以下の指し手。▲7一銀△同玉▲6二竜△同玉▲5一角△7一玉▲6二金△8二玉▲7二金△同玉▲6四桂△同歩▲6二角成(投了図)
まで、100手で一公の勝ち。

私は▲7一銀から、別手順で詰ました。▲6二角成に加藤女流三段が投了。
「綺麗な詰みですね」
「銀が入れば詰むと思ったんですが」
実際は角までいただいたのが大きかった。そして端歩の突きあいがなかったことが、私に幸いした。

「久しぶりに香落ちを指したから懐かしかった……。中盤までうまくいったと思ったんですけど……。△3六歩がよくなかった。▲3五飛で△3八竜が釘付けにされてしまって」
と加藤女流三段。
「まあ指導対局ですから」
「(序盤の)△7六銀のところ、角を上げるのかと思いました」
「? 角を(6六に)上がりましたが」
「イエ、角を差し上げる定跡があるんです」
「?」

第3図で私は▲6六角と上がったが、▲8六歩があるという。上手は△8七香だが、▲7七歩△8八香成▲同銀(参考D図)で、この後7六の銀を取れるという寸法だ。

「だからこの定跡をご存知なのかなと思って」
「イエイエ知りません。だけどこの香、こちらがくれてやった香ですよね。これを取り返したところで、角銀交換の駒損ですよね。これで下手がいいんでしょうか?」
調べてみると、以下の順は上手十分だった。
むろん本譜の順も下手が負けのはずで、一案で、第8図での△5八銀を聞いてみた。
「それは▲7九金で」
「私もそれは指すつもりでしたが、△5九銀不成とされて、指す手が分かりませんでした」
「ああ……」
もう時間も過ぎているので、感想戦はこれで終わりとなった。
無職はもう帰るのみ。大野七段に結果を聞かれ、「緩めてもらいました」と報告した。「でも香落ちでしたから」
「それでも大したもんですよ」
W氏とも軽く話をした。
「職業訓練所とか通ったらどう?」
「ありがとう。もう自分がアホすぎて、将棋を指す気力もないよ」
加藤女流三段はさすがに強く、羽生善治九段ではないが、私が勝ちと思ったのは、終盤加藤女流三段が△6八竜と指したときだった。いつも書いていることだが、上手は駒落ちの6面指しで、ほぼノータイム指し。それで下手を掌の上で転がすのだからさすがである。
今回は時間オーバーまで付き合ってくださった、加藤女流三段に感謝いたします。

帰宅後、参考A図を考える。△5九銀不成以下、▲6九金打△6八銀成▲同金直(参考E図)でどうか。ここで△5八金なら▲6二竜として、今度は持駒に銀があるから下手勝ち。

また参考B図の△5八金には、▲同金△同竜▲6八金で受かっているようだが、△8八金(参考F図)の鬼手があり、以下即詰み。▲6八金を▲6八銀打や▲6八桂に代えても、やはり△8八金から詰む。

ゆえに下手は△5八金のとき▲4四竜と馬を取り、これで逃げ切っていると思うが、精密な読みを要求される。私の棋力では勝てたかどうか。
あらためて、この将棋をよく勝ったと思った。
(おわり)
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