増田裕司六段のもとに向かうと、その先にいた渡部愛女流初段が私たちを見て、ケラケラ笑った。彼女には私たちがどう映ったろうか。
「増田先生、はじめまして。私、増田先生に似てると思うんですが、どうでしょうか」
「似てます似てます」
私が担当直入に切り出すと、増田六段は気圧されたように言った。
私は大いに満足して、ツーショット写真を所望する。近くにいた女性幹事さんにスマホを渡し、1枚撮ってもらった。いまさらだが、便利な世の中になったものだ。
が、その画像を確認すると、私があまりにも太っていて、愕然とした。しかも頭が薄い! この風貌で、よく増田六段が認めてくれたものだ。
私が半分うなだれて戻ると、A氏が
「関西の人は太ったり痩せたりが激しいからネ。この5年の間に増田さんは痩せて、逆転しちゃったんじゃない?」
と、分かったような分からないような理屈で、慰めてくれた。
いずれにしても、男性棋士との初のツーショット写真が増田六段とは、光栄なことであった。
アルコール類はかなり買ってきたが、あまり飲んべえもいないようで、未開栓の缶がけっこう残っている。割と人気があるのはソフトドリンクで、これは足りないくらいだ。もっと買っておくのだった。
左前方の女性陣は、若い男性とのおしゃべりに忙しいようだ。A氏もどこかへ行ってしまった。私の右は前田祐司八段のような人で以前対局したことがあるが、今日はまだ話していない。
その右の人も中年で、囲碁の井山裕太七冠の記事を手帳に貼っていた。かと思うと日本全国のご当地アイドルとのツーショット写真も大量にスクラップしており、その守備範囲の広さに圧倒された。前者はともかく、後者は若々しい趣味で、私もこうありたいと心底感心した。
もう6時は回っていると思うが、例年と雰囲気が違うのは、まだ空が明るいことだ。わずか3週間程度の違いだが、そのぶん陽が伸びているのだ。
私の右が空き、上野裕和五段が座った。私は昨今の将棋戦術について感じていることを上野五段に言う。まあ簡単にいえば、対振り飛車に急戦を指す人がいませんね、これでいいんですかね、の類だ。その言い方が我ながらエラソーで、これじゃあ立場があべこべである。
上野五段は私の憂慮に同意してくれたが、内心はどうだったろうか。
上野五段はまたどこかに行ってしまい、私の左には、2局目に対局した三段氏が座った。彼とは何となく話し、右に「前田八段」が戻ってきて、その輪に加わった。
しばらく3人で話していたが、A氏の奥さんと「前田八段」が同時に私に話しかけた。
ここで私がまたもや大悪手を指す。奥さんを手で制して、「前田八段」の話を先に聞いたのだ。
ここ、仕事ができる人なら、何はともあれ女性の話を聞くのではなかろうか。よく分からぬが、そんな気がする。
高校の文化祭の時、近隣の女子校の将棋部が我が将棋部に遊びに来た時も、私は相手をせず、後輩との将棋を優先させた。ほかにも似たような事例はいっぱいあるが、この空気の読めなさが、私の人生のすべてである。だから彼女さえできないのだ。
ちなみにこの後、もうA氏の奥さんと話す機会はなかった。まあ、そうなるのである。
A氏が渡部女流初段を連れてきて、男性会員のそばに招き入れた。現金なもので、それまで女性陣と話していた男性陣が、そろって回れ右をする。みんなそろって記念写真を撮ったりして、楽しそうだ。
もっともA氏の奥さんら女性陣も、渡部女流初段と写真を撮っていた。
ちなみに私は、(女流)棋士とはツーショットより、単独で撮りたいほうだ。自分が映ることに嫌悪を抱くからで、さっきの増田六段との写真が異例だったのである。
渡部女流初段はみなと談笑する。この位置からは彼女の後ろ姿が拝めるが、紺のノースリーブから伸びる腕がなまめかしく白い。
私は「前田八段」や三段氏と談笑するが、眼は渡部女流初段に釘づけだ。
そのうち、何だかムラムラしてきた。
渡部女流初段とは、彼女が中学生の時からの知り合いだが、今までそんな目で見たこと一度もない。まあ、そのくらい渡部女流初段が魅力的だったわけだが、おのが変態的性癖に情けなくなった。
(つづく)
「増田先生、はじめまして。私、増田先生に似てると思うんですが、どうでしょうか」
「似てます似てます」
私が担当直入に切り出すと、増田六段は気圧されたように言った。
私は大いに満足して、ツーショット写真を所望する。近くにいた女性幹事さんにスマホを渡し、1枚撮ってもらった。いまさらだが、便利な世の中になったものだ。
が、その画像を確認すると、私があまりにも太っていて、愕然とした。しかも頭が薄い! この風貌で、よく増田六段が認めてくれたものだ。
私が半分うなだれて戻ると、A氏が
「関西の人は太ったり痩せたりが激しいからネ。この5年の間に増田さんは痩せて、逆転しちゃったんじゃない?」
と、分かったような分からないような理屈で、慰めてくれた。
いずれにしても、男性棋士との初のツーショット写真が増田六段とは、光栄なことであった。
アルコール類はかなり買ってきたが、あまり飲んべえもいないようで、未開栓の缶がけっこう残っている。割と人気があるのはソフトドリンクで、これは足りないくらいだ。もっと買っておくのだった。
左前方の女性陣は、若い男性とのおしゃべりに忙しいようだ。A氏もどこかへ行ってしまった。私の右は前田祐司八段のような人で以前対局したことがあるが、今日はまだ話していない。
その右の人も中年で、囲碁の井山裕太七冠の記事を手帳に貼っていた。かと思うと日本全国のご当地アイドルとのツーショット写真も大量にスクラップしており、その守備範囲の広さに圧倒された。前者はともかく、後者は若々しい趣味で、私もこうありたいと心底感心した。
もう6時は回っていると思うが、例年と雰囲気が違うのは、まだ空が明るいことだ。わずか3週間程度の違いだが、そのぶん陽が伸びているのだ。
私の右が空き、上野裕和五段が座った。私は昨今の将棋戦術について感じていることを上野五段に言う。まあ簡単にいえば、対振り飛車に急戦を指す人がいませんね、これでいいんですかね、の類だ。その言い方が我ながらエラソーで、これじゃあ立場があべこべである。
上野五段は私の憂慮に同意してくれたが、内心はどうだったろうか。
上野五段はまたどこかに行ってしまい、私の左には、2局目に対局した三段氏が座った。彼とは何となく話し、右に「前田八段」が戻ってきて、その輪に加わった。
しばらく3人で話していたが、A氏の奥さんと「前田八段」が同時に私に話しかけた。
ここで私がまたもや大悪手を指す。奥さんを手で制して、「前田八段」の話を先に聞いたのだ。
ここ、仕事ができる人なら、何はともあれ女性の話を聞くのではなかろうか。よく分からぬが、そんな気がする。
高校の文化祭の時、近隣の女子校の将棋部が我が将棋部に遊びに来た時も、私は相手をせず、後輩との将棋を優先させた。ほかにも似たような事例はいっぱいあるが、この空気の読めなさが、私の人生のすべてである。だから彼女さえできないのだ。
ちなみにこの後、もうA氏の奥さんと話す機会はなかった。まあ、そうなるのである。
A氏が渡部女流初段を連れてきて、男性会員のそばに招き入れた。現金なもので、それまで女性陣と話していた男性陣が、そろって回れ右をする。みんなそろって記念写真を撮ったりして、楽しそうだ。
もっともA氏の奥さんら女性陣も、渡部女流初段と写真を撮っていた。
ちなみに私は、(女流)棋士とはツーショットより、単独で撮りたいほうだ。自分が映ることに嫌悪を抱くからで、さっきの増田六段との写真が異例だったのである。
渡部女流初段はみなと談笑する。この位置からは彼女の後ろ姿が拝めるが、紺のノースリーブから伸びる腕がなまめかしく白い。
私は「前田八段」や三段氏と談笑するが、眼は渡部女流初段に釘づけだ。
そのうち、何だかムラムラしてきた。
渡部女流初段とは、彼女が中学生の時からの知り合いだが、今までそんな目で見たこと一度もない。まあ、そのくらい渡部女流初段が魅力的だったわけだが、おのが変態的性癖に情けなくなった。
(つづく)