アドラー心理学に基づく勇気づけの研修(外部研修も)とカウンセリング、コンサルティングを行っています。
アドラー心理学による勇気づけ一筋40年 「勇気の伝道師」   ヒューマン・ギルド岩井俊憲の公式ブログ



おはようございます。ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
出張先の青森からアップしています。


今回は、『人はなぜ神経症になるのか』を素材にして、アドラーがいかに理論面だけでなく臨床面でも50年先を走っていたかの例を取り上げます。

この本の第2章にうつ病の患者に対するケース(P.35~38)で、アドラーは、共感的な関係を確立した上で、クライエントの行動を変えるための提案を次の2つの段階で与えることにしている、と言って、次のようなやりとりをします。

よりライブ感を出すために、逐語録風に記載します。

アドラー:「あなたにとって気持ちのいいことだけをしなさい」(第1段階での提案)

クライエント:「気持ちのいいことなどありません」(通常の答え)

アドラー:「それでは、少なくとも不愉快なことをする努力はしないでください」

こう言われると、症状を改善するために自分には向いていないことをするよう勧められてきた患者は、アドラーの助言を目新しく思い、うれしくなる。場合によっては、行動を改善するかもしれない。
ここで、アドラーは行動の第2の規則をほのめかす。

アドラー:「これは前に言ったものよりずっと難しいので、あなたがそれに従うことができるかどうかわかりません」

こう言ってからアドラーは黙り、患者の方を疑わしそうに見る。このようにしてアドラーは、患者の好奇心を刺激し、患者の注目を確保し、その上で次のように言う。

アドラー:「もしあなたがこの第2の規則に従うことができれば、2週間後にはよくなるでしょう。その規則というのは、時々、どうすれば他の人に喜びを与えることができるかどうかよく考えてみるということです。そうすれば、すぐに眠れるようになり、あなたが持っておられる悲しい考えを一掃することができるでしょう。自分が役に立ち、価値があると感じられるようになるでしょう」

アドラーのこのような提案に対しては、さまざまな応答が返ってくるが、どの患者も「実行するのは困難」だと考える。

クライエント:「自分自身でも喜びを持っていないのに、どうしてそれを他の人に与えることができるでしょう」

もしも答えが上のようだと、次のように言って見込みをより楽なものにする。

アドラー:「それなら4週間が必要でしょう」

クライエント:「誰が『私に』喜びを与えてくれるのですか」

このような率直な応答に対しては、次のように言って、ゲームの中で最も強力な一手でもって対決(コンフロンテーション)する

アドラー:「次のようにしてご自分を少し訓練なさるといいでしょう。実際に、誰か他の人を喜ばせるようなことを『しない』でください。ただ、どうすればそうすることが『できる』かどうかだけを考えてください」

クライエント:「おや、それなら簡単です。いつもしてきたことだから」

こう言ううつ病の患者がいれば、他の人より優位に立つために親切をしているのではないか、とアドラーは疑う。このような人には、

アドラー:「あなたが親切をした人は本当にそのことで喜んでいると思いますか」

と尋ねる。
時にはアドラーは、これはあまりにも難しすぎることを認め、妥協して穏やかな方法を持ち出す(注:これは不眠を訴えている患者に対してだからです)。

アドラー:「あなたが夜に思いつかれた考えをすべて覚えていてください。そして、それを翌日私に話して、『私を』喜ばしてください」

その前は何日も寝ていないにもかかわらず、深夜に何を考えていたかを尋ねられた患者は、「一晩中寝ていました」と答える。


アドラーの患者とのやりとりを読んでみると、逆説法、対決技法、エリクソンの混乱技法、一種の催眠技法、その他もろもろの技法が駆使されていることを発見できませんか?
アドラーは、不眠の人を眠らせるようにし、「誰か他の人を喜ばせるようなことを「『しない』ください」と暗示させながら「『アドラーを』喜ばすようにさせてしまう」のです。

ただし、このようなアプローチによってしばしば起こる災難である患者の自殺を経験したことがないアドラーは、次のように戒めるとともに、今日にも通じる、うつ病患者への周囲の援助にも言及しています。

・医師/セラピストは、すぐに勝利を収めることがないように注意しなければならない。むしろ、熱心に、あらゆる有用な情報を集めることで、患者のライフ・スタイルを再構築し続けるべきである。

・患者のまわりにいる人は皆、叱ったり、強いたり、あるいは、批判してはならず、むしろ、患者をより有利な状況にあるように援助しなければならないということを理解しなければならない。



いかがですか? アドラーが「早すぎた予言者」と言われたゆえんを再確認できましたか?

『人はなぜ神経症になるのか』は、このようなアドラーのケースがたくさん盛り込まれています。


<宣伝コーナー>

5月17日(土)13:30-18:30、18日(日)10:00-17:00にアドラー心理学に基づく「カウンセリング&セラピー演習」を開催します。

この講座は、ヒューマン・ギルドですでにカウンセラー養成講座を修了した方々を対象に、より徹底したカウンセリング(ライフ・スタイル診断も含む)に加えて、アドラー派のセラピーにまで及んで学ぶ講座です。カウンセラー養成講座のアドバンス編と受け止めていただければ結構です。

是非ご参加ください。


<お目休めコーナー> 自宅近くの早稲田通り沿いの、香り一杯のジャスミン



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