付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「「堕天使」がわかる」 森瀬繚・坂東真紅郎・海法紀光

2009-08-06 | エッセー・人文・科学
 昔はファンタジー関係の事典とかガイドブックとかほとんどなく、それこそボルヘスくらいだったわけですが、ソフトバンクの『RPG幻想事典』が売れたせいか、1980年代後半から雨だれのごとく類書が刊行され始めました。最大手の新紀元社「Truth In Fantasy」シリーズなんか今では100冊近いラインナップだし、単なる「××がわかる本」なんかビジネス書に混じってキオスクに並んでいたりします。
 そんな類書が玉石混合であふれている昨今、安心して買えて、買っただけの価値を保証できるのがクロノスケープや森瀬繚によるシリーズです。
 内容が詳しくて豊富なんですよね。それに参考文献を一覧すれば判りますけれど、先行する類書の孫引きや引用ではなく、可能な限り一次文献・二次文献に遡ろうという学術的なアプローチとマニアックなセレクションが魅力。これより詳しく調べ上げた本はさほど多くないと思います。「わかる本」と言いつつ全然入門書ではなく、エピソード中心の堕天使カタログを期待するとがっかりするかも。
 英仏語あたりの文献まで手を広げ、俗説を排除して出典が確認された情報しか載せず、かなり突っ込んだ話題を簡潔にまとめたという感じなので、本格的に興味を持ちたい人のためのガイドブックになってます。さんざん、どこかで読んだような説明の組み合わせとイラストの違いだけの本を買っていたものですから、このあたりは気にしてチェックしてます。
 単なるゲーマー、ファンタジーファンには不要かも知れませんが、創作者レベルでは一読の価値はあるんじゃないでしょうか……って、そういうことは自分には不要ということなのか?

【「堕天使」がわかる】【サタン、ルシフェルからソロモン72柱まで】【森瀬繚】【坂東真紅郎】【海法紀光】
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「黄石公の犬~闇狩り師」 夢枕獏

2009-08-06 | ホラー・伝奇・妖怪小説
「神も、美も、その存在形式は似ているってことだよ」
 伝奇バイオレンス小説の魁け、夢枕獏の『闇狩り師』シリーズの新刊です。

 一度始まってしまった公共事業を止めさせることは、どんなに理があっても難しい。それがさまざまな利権で暴力団と連んでしまえばなおさらである。
 そのダム工事も典型的な例であった。建設目的が取水から発電に変わり、さらに治水へと変わった。そしてダム工事に反対する人々が死んだり、放火されたりするようになった。
 妖物封じを稼業とする九十九乱蔵は、反対派に妨害工作を仕掛ける推進派議員や建設会社社長を呪殺しようとしている母親を止めてほしいと依頼を受けるのだが……。

 他に短編『媼』を収録。
 身長2m、体重145キロの好漢といわれる九十九乱蔵ですが、この人は好漢なんだと納得するには人の世界から半歩足を踏み外している気がします。確かに、人並みの情はあるけれど決して熱血漢ということはなく、悪人であろうと妖物に狙われていれば守ってやるし、それで死んだところでさほど気にするわけでもない。このあたりの淡々とした態度が、人も妖物も同じ世界の一部に過ぎないという達観を示していて独特の魅力に通じている気がします。
 本筋とまったく関係ない釣りに関するウンチクにかなりの紙幅を費やしているあたり、さすが夢枕獏と思いました。『黄石公の犬』のオチも予想の斜め上をいっていて脱帽。
 この巻からでも愉しめますので、一読の価値有り……というか、まともに『闇狩り師』を読んだのはこれが初めてかも(前に読んだのは来留間慎一の『闇の邂逅』だったりして)。

【黄石公の犬】【闇狩り師】【夢枕獏】【寺田克也】
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