付け焼き刃の覚え書き

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「ムーンライト・ラブコール」 梶尾真治

2009-08-21 | 時間SF・次元・平行宇宙
「男と女ってのはな、結ばれる結ばれないに拘わらず、傷つけあわないってことはないんだ。いずれ、どこかの時点で傷ついちゃうのさ」
 スナック「ヤング・ラスカル」のマスターの言葉。

 徳間文庫やハヤカワ文庫に収録されている過去作品から、ロマンチックSF系ばかり集めたカジシン作品のアンソロジー。
 表題作『ムーンライト・ラブコール』はコミックではときどき見るテーマで、古くは『私を月まで連れてって!』の第10話「オリオン座は笑う」(1977)、最近だと『水惑星年代記』の「LETTERS2」(2006)などでも扱っているのだけれど、こういう落とし方をするところが良いです。「オリオン座は笑う」の元ネタはフレドリック・ブラウンだったっけ?
 有川浩の『空の中』やドイルの『大空の恐怖』と同じ題材を思いっきりひねった『ローラ・スコイネルの怪物』も好きな話です。こういう短編はネタ勝負という面もありますが、他にも同じネタを扱った作品があった場合、それどう扱ったか比べてみるのも面白いものです。そのときどきの時代性とか作家の個性が出ますから。
 SF好きな加塩青年がちょい役で登場する『一九六七空間』はフィニィ・タイプのタイムスリップもの。ジャック・フィニィの小説に登場するタイムスリップはたいていの場合、共感魔術的なものです。特別な機械は使わないし、何か時空の異変が起きるというわけでもない。もう何百年も前に建てられた建物に立ってみたり古い机の引き出しを開けてみたり、過去の世界と同じ道具に触れたり過去の世界と同じような状況に身を置くことで空間もいつの間にかつながってしまうというような話です。これもそういう話であり、もし人生をやり直せたらどうするかというテーマです。
 ダメ中年3人がかつてのヒロインのために一肌脱いだ『ヴェールマンの末裔たち』も一種のタイムトラベルもの。他にも、ワインを作る男たちの約束の話『夢の閃光・刹那の夏』、星を超えた恋物語『ファース・オブ・フローズン・ピクルス』、女友達をめぐって仲違いした親友の再会『メモリアル・スター』、老夫婦が出会ったクリスマスの奇跡は『アニヴァーサリィ』など魅力的な作品が詰まってます。

【ムーンライト・ラブコール】【梶尾真治】【通信販売】【サンタクロース】
コメント
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