付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「NASA/トレック」 コンスタンス・ペンリー

2009-08-31 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「偉業を成しとげるために危険をおかすのを怖れてはならない。けれども、無知で無謀なギャンブルに人命を賭けたりしないよう最大の注意を払わねばならない」
 1927.8/31『アウトルック』に掲載されたミルドレッド・ドーランを偲ぶ言葉の一節。

 「/」という記号は日本のヤオイにおける「×」と同じようなものと考えれば良いんですよね?
 この本は現実世界における宇宙開発の担い手である「NASA」と架空世界において人々を宇宙冒険へと誘ってきた「スター・トレック」という似て非なるものをスラッシュすることで、アメリカ社会におけるサイエンスとセックスとポピュラー・カルチャーを浮き上がらせようというもの。ファンタジーとリアリティーは裏表なのです。

 ただ第1部「NASA神話の光と影」でイメージで誤魔化されがちなNASAの無為無策、予算獲得のためのその場しのぎ、旧態依然の女性特別視、トラブルの原因隠しなどを指摘する一方、第2部「もうひとつの『スタートレック』ではスタトレ同人誌界での傾向と対策というか、どういう組み合わせが容認され、どのようなストーリー展開が非難されるか等について語っているわけですが、今ひとつ全体の構成がしっくりと頭に入ってきません。というか、この本全体で何が言いたいか飲み込めないのは真剣に読んでいないせいなのかな。
 さっくりまとめてしまうと、どちらも宇宙テクノロジーの象徴であり、互いに影響し合っていることは事実。頭が硬直しきっているNASAは、この際、スタトレ同人誌の方も見習って、ホモエロな平等主義と反人種差別思想で徹底的に染め上げなさい……ってことなんでしょうか?
 プロローグも第1部、第2部、エピローグもそれぞれの論としては面白いです。ただ、論文の構成として考えるのであれば、もうちょい一体化した方が読みやすくなる気がします。

 訳者はあまり『スター・トレック』を知らないのかしらねとあとがきの引用箇所を見て思いました。少なくとも日本版オープニングには思い入れはない模様。

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「こちら南極 ただいまマイナス60度」 中山由美

2009-08-31 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 第45次南極観測隊に同行した朝日新聞の中山由美記者の1年半の記録です。
 やはり、こういう事業は継続して行われることが重要であり、そしてただ続けるだけでなく社会の注目を集め続ける工夫が大切だということはアポロ計画の例を見ても分かります(アポロ計画は月着陸の成功がピークで以後取材なども激減し、次に注目を集めたのは13号の事故。社会の関心が薄れると共に予算も縮小され……という顛末)
 そういう意味で、これ以後、毎年取材が入るようになったのは嬉しいことです。南極に朝日新聞から記者が派遣されるのは25年ぶり、越冬隊としては36年ぶりということで、長くご無沙汰でしたから。
 記者として同行……というとお客さまで付いていくだけと受け取られがちですが、何かあっても途中で引き返せない上、持ち込める物資も送り込める人員も制限のある極地です。女性記者といえどもゴミ拾いから施設の建設作業にまで駆り出され、話のネタに困るということはありません。片道400キロ、標高4000mというドーム基地への遠征にも同行して交替でドライバーを務めています。
 かといって、隊員と完全に一体になってしまっては取材者が取材対象と近くなりすぎて記事が書けなくなりますので痛し痒し。それで人間関係がおかしくなっても、狭い基地内では逃げることもできません。いろいろ苦労もあったようです。

 菌がいなけりゃ賞味期限なんか関係ないとは『面白南極料理人』でも書かれたことですが、同じようなエピソードを配信しようとしたら「好ましくない」と編集長に没にされたあたりにぬくぬくした東京とサバイバルな現地との温度差を感じます。そして、そのことも含めて結局単行本に収録してしまったあたり、やはり納得してなかったのでしょうか。暖かくても冷蔵庫並という気温で無菌状態。まだ食べられるものを食べましたと報告するのがそんなにいけないことなのかしら?と。

 『不肖・宮嶋……』とは違って「子供に読ませたい南極紀行」ですが、難をいえば個人レポートのまとめに手を入れたものなので全体の流れが把握しづらく、また隊員の個人名を出すのは極力避けているようなので、そのときそこに誰がいるとか何人いるとかほとんど分かりません。ドーム基地遠征も女性が全部で3人いたというだけで、誰が何していたかも分かりません。名前を挙げて事細かに報告すると『不肖・宮嶋……』のように非難を受けるからなのか、「私がこうした」についてはかなりあけすけな部分まで書いてあっても「他の人がどうしたか」はあまり分かりません。それは言葉の選び方ひとつで思いも寄らぬクレームがきて詰め寄られるエピソードの数々や、子供も読むことが前提のホワイトメールという媒体でインターネットによって毎日配信ということを考えると仕方がないと思います。でも、そこだけは『不肖・宮嶋……』や『面白南極料理人』と比較して物足りない点でした。
 他にも同行していた朝日新聞社カメラマン・武田剛の『ぼくの南極生活500日』とか、日刊スポーツ新聞の女性記者・小林千穂の『南極、行っちゃいました』とかも関連書として面白そうなので近いうちに手に入れて読んでみたいものだと思います。

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