付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「中華料理の文化史」 張競

2013-07-02 | 食・料理
 中国四千年の歴史というけれど、広大な大陸のすべてを同じ民族、同じ王朝が支配していたわけではなく、さまざまな勢力が群雄割拠し興亡があっての四千年。その文化の一部である料理も同じで、中華料理の定番とも言える料理もせいぜい百年というものが多いようです。
 そもそも今では普通に中華の食材として利用されているトウガラシやトマトも原産地は南米。つまり、楊貴妃はトマトの飾り切りなんて見たことも無かったし、四川料理だって辛みはせいぜい山椒でトウガラシが使われるようになったのは最大で考えても500年そこそこ。
 そして新たな食材、新たな料理法と共に忘れ去られた食材や調理法も数限りなく、漢民族がいて満州族が勃興して騎馬民族が押し寄せ南蛮が北上し……という世の移り変わりと共に食の変遷も続き、生肉料理を食べていたり食べられなくなったり、犬やら山菜やら食べるようになったり廃れたりの連続です。
 そんな食材と調理法の変遷を、春秋戦国時代から現代まで文献から壁画まで駆使して追いかけたのがこの本で、今回の文庫化にあたって最近の事情について1節を追加しています。中国で生まれ育った著者も、10年ぶりに帰国したら、メニューに何が書かれているか分からなくなっていたという冒頭のくだりは印象的です。
 今では大皿ではなくフレンチのように飾り付けして料理を一品ずつ饗するのがあたりまえになりつつあり、飲茶の習慣も広まりつつあるようですが、いろいろな食文化を積極的に取り入れているという点では日本とよく似ているのに、新しいものの導入によって古い料理や食材が忘れ去られてしまうというところが中国的なのだといえそうです。

【中華料理の文化史】【張競】【ちくま文庫】【春巻】【膾】【北京ダック】【麻婆豆腐】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする