「いやー よかったよかった」
「よそ見してたでしょ」
「はあ」
「ちゃんと見てくれなきゃ駄目じゃないですか」
「はあー」
あれっ、担当君に話し掛けている。
「この袋あげるよ」
「はっ」
「いらない」
「いや いただきます」担当君、袋を手にとってまじまじと見つめている。
「へー」
「へーじゃない ここら辺に切れ目があろうが」
「あっそうですね ここに切れ目がありますね やった つかえますね」
何に使うのかは彼の勝手だが、こんなもので手品でもするつもりかな。
まあしかし、担当君は今日二つも手品のネタを教えてもらったのだから儲けものだったに違いない。
「私 時間がありませんので すみませんが」とは担当君の口から出たものだ。
今までじっと我慢していたのだろう。堰を切ったように話した。
「おー お疲れ」
彼がいたお陰で私が生贄にならなくてよかった。彼に感謝だなと、窓の外に目をやっていた。大きな船が西に向かっていた。
手品師は私にお尻をむけてあのポーチでごそごそとしている。あーそうか。片付けているのだな。
と、突然、頭だけを私のほうに捻って
「で、どうなんですか」と、落ち着き払って私になにか聞き質しているようだ。
一瞬手品がまだ続くのかなと思った。
「なにが」
「なにがって 今日はお見舞いに来たんじゃないですか」
写真は退院の様子 群馬から来られた方(頚椎で入院手術)が撮してくれた。