「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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生存権と選挙権を守る その守り方を考える 平成22年新司法試験憲法学問題の事例

2012-11-15 23:00:00 | 国政レベルでなすべきこと

 まさに、現実に直面する問題が、新司法試験問題でも取り上げられていました。

 職を失い、離婚し、インターネット・カフェでしか「現在地」を有しないXさんの生存権と選挙権をいかに守るかの問題でした。
Y市の対応に大いに疑問を感じました。



 平成22年新司法試験問題 憲法学
http://www.moj.go.jp/content/000046904.pdf

市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成しなければな
らない【参考資料1】。生活の本拠である住所(民法第22条参照)の有無によって,権利や利益の
享受に影響が生じる。国民の重要な基本的権利である選挙権も,住所を有していないと,選挙権を
行使する機会自体を奪われる(公職選挙法第21条第1項,第28条第2号,第42条第1項参照)。
また,国民健康保険や介護保険等の手続をするためには,住民登録が必要である。ただし,生活保
護法は,「住所」という語を用いておらず,「居住地」あるいは「現在地」を基準として保護するか
否かを決定し,かつ,これを実施する者を定めている【参考資料2】。
ボランティア活動などの社会貢献活動を行う,営利を目的としない団体(NPO)である団体A
は,ホームレスの人たちなどが最底辺の生活から抜け出すための支援活動を行っている。団体Aは,
支援活動の一環として,Y市内に2つのシェルター(総収容人数は100名)を所有している。そ
の2つのシェルターに居住する人たちは,それぞれのシェルターを住所として住民登録を行い,生
活保護受給申請や雇用保険手帳の取得,国民健康保険や介護保険等の手続をしている。
Xは,Y市内にあるB社に正規社員として20年勤めていたが,B社が倒産し,突然職を失った。
そして,失職が大きな原因となり,X夫婦は離婚した。その後,Xは,C派遣会社に登録し,紹介
されたY市内にあるD社に派遣社員として勤め始め,Y市内にあるD社の寮に入居した。しかし,
D社の経営状況が悪化したために,いわゆる「派遣切り」されたXは,寮からも退去させられた。
職も住む所も失ってしまったXは,団体Aに支援を求めた。そして,その団体Aのシェルターに入
居し,そこを住所として住民登録を行った。不定期のアルバイトをしながら,できる限り自立した
生活をしたいと思っているXは,正規社員としての採用を目指して,正規社員募集の情報を知ると
応募していたが,すべて不採用であった。その後,厳しい経済不況の中,団体Aの支援を求める人
も急増し,2つのシェルターに居住し,そこを住所として住民登録を行う人数が200名を超える
に至った。シェルターが「飽和状態」となって息苦しさを感じたXは,シェルターに帰らなくなり,
正規社員への途も得られず,アルバイトで得たお金があるときはY市内のインターネット・カフェ
を泊まり歩き,所持金がなくなったときにはY市内のビルの軒先で寝た。
201*年4月に,Y市は,住民の居住実態に関する調査を行った。調査の結果,団体Aのシェ
ルターを住所として住民登録している人のうち,Xを含む60名には当該シェルターでの居住実態
がないと判断した。Y市長は,それらの住民登録を抹消した。
住民登録が抹消されたことを知ったXは,それによって生活上どのようなことになるのかを質問
しに,市役所に行ったところ,国民健康保険被保険者証も失効するなどの説明を受けた。Xは,胃
弱という持病があるし,最近体調も思わしくなかったが,医療費が全額自己負担になるので,病院
に行くに行けなくなった。
住民登録を抹消され,貧困ばかりでなく,生命や健康さえも脅かされる状況に追い詰められたX
は,生活保護制度に医療扶助もあることを知り,申請日前日に宿泊していたインタ-ネット・カフ
ェを「居住地」として,Y市長から委任(生活保護法第19条第4項参照)を受けている福祉事務
所長に生活保護の認定申請を行った。
Y市は,財政上の問題(生活保護のための財源は,国が4分の3,都道府県や市,特別区が4分
の1を負担する。)もあるが,それ以上にホームレス【参考資料3】などが市に増えることで市のイ
メージが悪くなることを嫌って,インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現
在地」とは認めない制度運用を行っている。そこで,Y市福祉事務所長は,Xの申請を却下した。
Xは,たまたまインターネット・カフェで見ていたニュースで,自分と全く同じ状況にある人にも
生活保護を認める自治体があることを知った。その自治体は,インターネット・カフェやビルの軒
先も「居住地」あるいは「現在地」と認めている。そこで,Xは,Y市福祉事務所長の却下処分に
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対して,自分と同じ状況にある人の保護を認定している自治体もあることなどを理由に,不服申立
てを行った。しかし,不服申立ても,棄却された。
Y市は,衆議院議員総選挙における選挙区を定める公職選挙法別表第1によれば,市全域で1選
挙区と定められている。Xは,住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙の際
に,選挙人名簿から登録を抹消されたために投票することができなかった。このような事態は,従
来から,ホームレスの人たちなどの支援活動を行っているNPOから指摘されていた。そして,そ
れらのNPOは,Xの住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙よりも7年前
に行われた200*年8月の衆議院議員総選挙の際に,国政選挙における「住所」要件(公職選挙
法第21条第1項,第28条第2号及び第42条第1項のほか,同法第9条,第11条,第12条,
第21条,第27条第1項参照)の改正を求める請願書を総務省に提出していた。
Xは,無料法律相談に行き,生活保護と選挙権について弁護士に相談した。


〔設問1〕
あなたがXの訴訟代理人として訴訟を提起するとした場合,訴訟においてどのような憲法上の
主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書きなさい。

〔設問2〕
設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べ
なさい。



【参考資料1】住民基本台帳法(昭和42年7月25日法律第81号)(抄録)
(目的)
第1条この法律は,市町村(特別区を含む。以下同じ。)において,住民の居住関係の公証,選挙
人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等
の簡素化を図り,あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,住民に関する記録を正確
かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め,もつて住民の利便を増進するとともに,国及び地
方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。
(国及び都道府県の責務)
第2条国及び都道府県は,市町村の住民の住所又は世帯若しくは世帯主の変更及びこれらに伴う
住民の権利又は義務の異動その他の住民としての地位の変更に関する市町村長(特別区の区長を
含む。以下同じ。)その他の市町村の執行機関に対する届出その他の行為(次条第3項及び第21
条において「住民としての地位の変更に関する届出」と総称する。)がすべて一の行為により行わ
れ,かつ,住民に関する事務の処理がすべて住民基本台帳に基づいて行われるように,法制上そ
の他必要な措置を講じなければならない。
(市町村長等の責務)
第3条市町村長は,常に,住民基本台帳を整備し,住民に関する正確な記録が行われるように努
めるとともに,住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めな
ければならない。
2 市町村長その他の市町村の執行機関は,住民基本台帳に基づいて住民に関する事務を管理し,
又は執行するとともに,住民からの届出その他の行為に関する事務の処理の合理化に努めなけれ
ばならない。
3 住民は,常に,住民としての地位の変更に関する届出を正確に行なうように努めなければなら
ず,虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為をしてはならない。
4 (略)
(住民の住所に関する法令の規定の解釈)
第4条住民の住所に関する法令の規定は,地方自治法(昭和22年法律第67号)第10条第1
項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。
(住民基本台帳の備付け)
第5条市町村は,住民基本台帳を備え,その住民につき,第7条に規定する事項を記録するもの
とする。
(住民基本台帳の作成)
第6条市町村長は,個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成しなけ
ればならない。
2,3 (略)
(住民票の記載事項)
第7条住民票には,次に掲げる事項について記載(前条第3項の規定により磁気ディスクをもつ
て調製する住民票にあつては,記録。以下同じ。)をする。
一氏名
二出生の年月日
三男女の別
四世帯主についてはその旨,世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
五戸籍の表示。ただし,本籍のない者及び本籍の明らかでない者については,その旨
六住民となつた年月日
七住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については,その住所を定め
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た年月日
八新たに市町村の区域内に住所を定めた者については,その住所を定めた旨の届出の年月日(職
権で住民票の記載をした者については,その年月日)及び従前の住所
九選挙人名簿に登録された者については,その旨
十~十四(略)
(選挙人名簿の登録等に関する選挙管理委員会の通知)
第10条市町村の選挙管理委員会は,公職選挙法(昭和25年法律第100号)第22条第1項
若しくは第2項若しくは第26条の規定により選挙人名簿に登録したとき,又は同法第28条の
規定により選挙人名簿から抹消したときは,遅滞なく,その旨を当該市町村の市町村長に通知し
なければならない。
(選挙人名簿との関係)
第15条選挙人名簿の登録は,住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有するものについて
行なうものとする。
2 市町村長は,第8条の規定により住民票の記載等をしたときは,遅滞なく,当該記載等で選挙
人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。
3 市町村の選挙管理委員会は,前項の規定により通知された事項を不当な目的に使用されること
がないよう努めなければならない。
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【参考資料2】生活保護法(昭和25年5月4日法律第144号)(抄録)
(この法律の目的)
第1条この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,国が生活に困窮するすべての国
民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,
その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
第2条すべて国民は,この法律の定める要件を満たす限り,この法律による保護(以下「保護」
という。)を,無差別平等に受けることができる。
(最低生活)
第3条この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することが
できるものでなければならない。
(実施機関)
第19条都道府県知事,市長及び社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関す
る事務所(以下「福祉事務所」という。)を管理する町村長は,次に掲げる者に対して,この法律
の定めるところにより,保護を決定し,かつ,実施しなければならない。
一その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者
二居住地がないか,又は明らかでない要保護者であつて,その管理に属する福祉事務所の所管
区域内に現在地を有するもの
2 居住地が明らかである要保護者であつても,その者が急迫した状況にあるときは,その急迫し
た事由が止むまでは,その者に対する保護は,前項の規定にかかわらず,その者の現在地を所管
する福祉事務所を管理する都道府県知事又は市町村長が行うものとする。
3 第30条第1項ただし書の規定により被保護者を救護施設,更生施設若しくはその他の適当な
施設に入所させ,若しくはこれらの施設に入所を委託し,若しくは私人の家庭に養護を委託した
場合又は第34条の2第2項の規定により被保護者に対する介護扶助(施設介護に限る。)を介護
老人福祉施設(介護保険法第8条第24項に規定する介護老人福祉施設をいう。以下同じ。)に委
託して行う場合においては,当該入所又は委託の継続中,その者に対して保護を行うべき者は,
その者に係る入所又は委託前の居住地又は現在地によつて定めるものとする。
4 前三項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」という。)は,保護の決定及び
実施に関する事務の全部又は一部を,その管理に属する行政庁に限り,委任することができる。


【参考資料3】ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成14年8月7日法律第105号)
(抄録)
(目的)
第1条この法律は,自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存
在し,健康で文化的な生活を送ることができないでいるとともに,地域社会とのあつれきが生じ
つつある現状にかんがみ,ホームレスの自立の支援,ホームレスとなることを防止するための生
活上の支援等に関し,国等の果たすべき責務を明らかにするとともに,ホームレスの人権に配慮
し,かつ,地域社会の理解と協力を得つつ,必要な施策を講ずることにより,ホームレスに関す
る問題の解決に資することを目的とする。
(定義)
第2条この法律において「ホームレス」とは,都市公園,河川,道路,駅舎その他の施設を故な
く起居の場所とし,日常生活を営んでいる者をいう。

出題趣旨:
http://www.moj.go.jp/content/000054317.pdf



採点実感:
http://www.moj.go.jp/content/000069353.pdf

 

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