テロ行為は、決してゆるされないとしても、以下の法案は、許されるのか?
新司法試験からの問題提起です。
**********新司法試験 憲法 プレテスト**********************************
[公法系科目]
〔第1問〕(配点:100)
Xは,A党に属する衆議院議員であるが,200X年の総選挙において,国際的にテロ対策を進
めることが課題となってきていること(資料1)を踏まえて,我が国においても国際テロ対策を強
力に推進することを選挙公約にうたって(資料2)再び当選した。その後,Xは,他のA党の議員
とともに,国際テロリズム対策法案を衆議院に提出する準備を進め,同法案の要綱(資料3)を策
定した上で,衆議院法制局に対して,それを示し,憲法に違反するものでないか相談をした。
この事例について以下の問いに答えなさい。
1.国際テロリズム対策法案について,要綱の第1から第7のどの項目にどのような憲法上の問題
点が考えられるかを箇条書きにして挙げなさい。
2.要綱の項目のうち,憲法違反となる疑いがもっとも強いと考えるものについて論じなさい。そ
の上で,その違憲の疑いを軽減させる方策について検討しなさい。
資料1 テロリズムに対するG8首脳声明
平成13年9月19日
我々G8首脳は,9月11日にアメリカ合衆国に対して行われたテロリズムという野蛮な行為を
限りなく強く非難する。我々の哀悼の意はアメリカの国境内のみに留まらない。なぜならニューヨ
ークとワシントンは多くの国の国民が住んでいる国際都市だからである。犯人,そして如何なる手
段であっても犯人をかくまったり,援助や支援を差し延べたりしたすべての者は,無実の人々と国
際社会の中心的な価値や利益に対して攻撃を仕掛けたのである。その行為は全ての人々,全ての信
仰,全ての国についての平和と繁栄と安全に対する深刻な脅威である。我々は,憎しみと恐怖を犯
す者により世界の諸国民や諸文化を分断させることは許さない。
国連憲章は全加盟国に対して国際の平和及び安全を維持するための有効な措置を執るよう明確に
責任を課している。
12件のテロ対策国連諸条約はテロリズムとの戦いに関する国際的な行動の規範を定めている。
9月11日の野蛮な事件を受けて,我々はすべての国々にこれらの条約の可及的速やかな批准へ向
けての措置を執り,また,批准前であっても直ちにこれらの条約の内容を実施するよう強く要請す
る。
我々は,我々の外務,財務,司法および必要に応じ他の関係各大臣に対し,対テロ協力強化のた
めの具体的措置に関するリストを作成するよう指示した。その中には,テロリストへの資金の流れ
を断ち切るための金融的措置及び制裁の行使の拡大,航空安全,武器輸出の管理,治安その他の当
局間の協力,テロに対する全ての支援の拒絶,そして,テロの脅威の特定と除去が含まれる。我々
は具体的な措置を特定し,それらを実施することによって,今回の非道な行為の犯人を法の下で裁
き,あらゆる形態のテロと戦い,更なるテロ攻撃を防止し,そしてこのグローバルな悪との戦いに
おける国際的な協力を強化するという決意を強調するものである。
我々は,これらの努力において我々と協調する用意のある全ての者を歓迎し,また,我々もそう
した者を支援する。
資料2 Xの選挙公約
1 世界一安全な国家を作るため,テロ対策を推し進めます!
・国際的テロ組織は,米国の同盟国である我が国をテロの標的として名指ししています。
・国際刑事警察機構を通じて国際手配されていた国際テロ組織関係者が,他人名義の偽造旅
券を使用して我が国に不法に入国を繰り返していました。
↓
今すぐ,国際テロリストの実態(潜伏的,無差別的)に合わせたテロ対策が
必要です。テロ行為を未然に防ぐには予防的措置が必要です。
四つの対策の提言
① テロリストに関する情報収集方策の強化
② テロリストを入国させない対策
③ テロリストを我が国で自由に活動させないための対策強化
④ テロ資金を封じるための対策強化
(以下略)
資料3 国際テロリズム対策法案(要綱)
第1 目的
この法律は,我が国において国際テロリズム活動を行う団体の活動を禁止するとともに,国
際テロリズム活動に対する必要な規制措置を定め,もって我が国を含む国際社会の平和及び安
全の確保に資することを目的とする。
第2 定義
この法律における用語の意義は,以下に定めるところによる。
① 「テロリスト犯罪」とは,我が国若しくは外国(条約等の国際的約束により設立された国
際機関を含む。)に作為若しくは不作為を強制し,又は,我が国若しくは外国の政策に影響を
及ぼすことを目的として,人の生命にとって危険な行為を行うことをいう。
② 「国際テロリズム活動」とは,2か国以上の国においてテロリスト犯罪を行う運動をいう。
③ 「特定国際テロリズム組織」とは,国際テロリズム活動を行う組織のうち,特に我が国に
おける公共の安全にとって脅威となるものであって,国家公安委員会によって指定されたも
のをいう。
第3 特定国際テロリズム組織の指定
1 警察庁長官は,国際テロリズム活動を行う組織が特に我が国における公共の安全にとって脅
威となると判断する場合には,国家公安委員会に対して,請求の内容・理由等を記載した指定
請求書を提出して,当該組織を「特定国際テロリズム組織」に指定するよう求めることができ
る。
2 警察庁長官による指定請求がなされた場合には,国家公安委員会は指定請求があった旨を官
報において公示しなければならない。当該指定請求に異議のある者は,国家公安委員会に対し
て,指定に反対する理由を記載した書面を提出することができる。
3 国家公安委員会は,審査にあたり必要である場合には,警察庁長官に対し,さらに説明を補
充するとともに資料を提出するよう求めることができる。
4 国家公安委員会は,当該組織が特に我が国における公共の安全にとって脅威となると判断す
る場合には,「特定国際テロリズム組織」の指定を行うものとする。この指定は,官報で公示さ
れなければならず,公示した時から効力を有する。
第4 「特定国際テロリズム組織」への参加の禁止
何人も「特定国際テロリズム組織」の構成員となるなど,「特定国際テロリズム組織」の活動
に加わってはならない。違反者は,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
第5 「特定国際テロリズム組織」のためにする行為の禁止
何人も「特定国際テロリズム組織」のためにするいかなる行為(「特定国際テロリズム組織」
への情報若しくは物的手段の提供,又は「特定国際テロリズム組織」の犯罪行為に寄与すると
知りながら資金を提供することを含む。)も行ってはならない。違反者は,1年以下の懲役又は
50万円以下の罰金に処する。
第6 捜索・押収
1 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,「特定国際テロリズム組織」による犯罪行為が行わ
れようとしていると疑うに足りる充分な理由がある場合において,証拠を保全する緊急性があ
り,かつ,裁判官の令状を求めることができないときは,その理由を告げて当該場所に立ち入
り捜索し,証拠物を押収することができる。
2 検察官,検察事務官又は司法警察職員は,裁判官の令状なしに捜索し証拠物を押収した場合
には,直ちに,裁判官に対して,捜索をした場所,理由を記載した書面と押収した物の目録を
提出し,その許可を求めなければならない。裁判官が許可を与えなかった場合には,速やかに
押収物を還付しなければならず,押収物の複写物又は写真は破棄されねばならない。
第7 金融機関に対する質問等
検察官,検察事務官又は司法警察職員は,銀行等の金融機関に対して,「特定国際テロリズム
組織」による犯罪行為に関わりのあると信じることに相当の理由がある預金,振込等につき質
問し,記録の閲覧を求めることができる。金融機関の職員が質問に答えず若しくは偽りの答弁
をし,又は記録の閲覧を認めなかった場合には,当該職員は50万円以下の罰金に処する。
********法務省出題の趣旨*********
【公法系科目】
〔第1問〕
本問の「国際テロリズム対策法案(要綱)」には,刑罰法規の明確性の要件,国際テロリズム
活動規制と結社の自由及び表現の自由との関係,「特定国際テロリズム組織」の指定の際の適正
手続の保障,裁判官の令状を要しない捜索・押収の許容性,捜査機関の質問権限と自己負罪拒
否特権との関係等,様々な憲法上の問題があり得る。本問は,こうした架空の法案を素材とし
て,その背景を示す資料をも参照しながら,憲法上の問題を分析する力を問うとともに,違憲
の疑いを軽減させる方策を考察する能力をも問うものである。