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たとえ条例を急ぎ作って産廃施設に対抗しても、手続きを誤ると、町が負ける例(最判H16.12.24)

2015-01-11 23:00:00 | 行政法学
 水源保護のため、産業廃棄物中間処理施設を阻止する条例を定めたとしても、その手続きが誤れば、その手続き違反から最高裁において、町を訴えた当該処理施設に負ける例。

 手続きは、大事です。


*************************最高裁************************************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/304/052304_hanrei.pdf

         主    文
        原判決を破棄する。
      本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

         理    由
 上告代理人伊勢谷倍生,同向山欣作の上告受理申立て理由について
 1 本件は,上告人が三重県北牟婁郡a町において産業廃棄物中間処理施設(以
下「本件施設」という。)の建設を計画したところ,被上告人が,本件施設をa町
水道水源保護条例(平成6年a町条例第6号。以下「本件条例」という。)2条5
号所定の規制対象事業場と認定する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした
ため,上告人が被上告人に対し,本件処分の取消しを求めた訴訟である。
 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 本件条例は,水道法2条1項の規定に基づき,a町(以下「町」という。)
の住民が安心して飲める水を確保するため,町の水道水質の汚濁を防止し,その水
源を保護し,住民の生命,健康を守ることを目的とするものであり(1条),町長
は,水源の水質を保全するため水源保護地域を指定することができるとするととも
に(11条1項),産業廃棄物処理業その他の水質を汚濁させ,又は水源の枯渇を
もたらすおそれのある事業を対象事業とし(2条4号及び別表),対象事業を行う
工場その他の事業場のうち,水道にかかわる水質を汚濁させ,若しくは水源の枯渇
をもたらし,又はそれらのおそれのある工場その他の事業場を規制対象事業場と認
定することができる旨規定し(2条5号,13条3項),水源保護地域に指定され
た区域における規制対象事業場の設置を禁止し(12条),これに違反した場合に
は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処することとしている(20条)。
そして,本件条例によれば,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業
者は,あらかじめ町長に協議を求めるとともに,関係地域の住民に対する説明会の
- 1 -
開催等の措置を採ることを義務付けられており,町長は,事業者から事前協議の申
出があったときは,a町水道水源保護審議会(以下「審議会」という。)の意見を
聴き,規制対象事業場と認定するかどうか判断することとされている(13条)。
審議会は,町の水道に係る水源の保護に関する重要な事項について,調査,審議す
る機関であり(5条),町議会の議員,学識経験者,関係行政機関の職員等のうち
から町長が委嘱し,又は任命する委員10人以内をもって組織することとされてい
る(6条)。
 (2) 上告人は,産業廃棄物の収集,運搬,再生,再生物販売及び処分業その他
の事業を目的として平成5年9月28日に設立された有限会社であるところ,町の
区域内に本件施設を設置して産業廃棄物処理業を行うことを計画した。本件施設の
建設予定地は,b川にほぼ隣接しており,c簡易水道の取水施設(以下「c水源」
という。)の上流に位置している。
 (3) 上告人が平成5年11月5日に本件施設に係る産業廃棄物中間処理事業計
画書を三重県尾鷲保健所長に提出したことから,同月29日,現地調査が実施され
,同県及び町関係各機関との間で事前協議会が開催された。
 (4) 上告人の前記計画を知った町は,本件条例を制定することとし,平成6年
3月18日開催の町議会において本件条例が可決され,成立した。本件条例は同月
25日に公布され,即日施行された。そして,被上告人は,同年8月15日,本件
条例11条1項に基づき,本件施設の建設予定地を含む町の区域の相当部分をa町
水道水源保護地域と指定し,同日,同条3項に基づき,その旨を公示した。
 (5) 上告人は,平成6年12月22日,被上告人に対し,所定の添付書類を添
えて対象事業協議書を提出した。被上告人は,同7年1月4日,本件条例13条3
項に基づいて,審議会に,上告人から提出された上記対象事業協議書に関して意見
を求めた。審議会は,上記対象事業協議書に添付された対象事業計画書に対象事業
- 2 -
の実施に伴う使用水量の総量及びその供給源等についての言及がなかったため,上
告人に対してこの点について問い合わせをした。これに対し,上告人が,同年5月
9日,地下水の取水等により日量95厭の水を消費することとなる旨の回答をした
ところ,審議会は,同月16日,被上告人に対し,本件施設は規制対象事業場と認
定することが望ましいという旨の答申をした。被上告人は,同月31日,本件施設
は本件条例2条4号所定の対象事業を行うもののうち同条5号所定の水道水源の枯
渇をもたらし,又はそのおそれのある工場,その他の事業場に当たるとして,本件
処分をし,同日付けの規制対象事業場認定通知書によって上告人にその旨を通知し
た。
 (6) 他方,上告人が,平成6年12月27日,廃棄物の処理及び清掃に関する
法律(平成9年法律第85号による改正前のもの)15条1項に基づき,三重県知
事に対し,本件施設に係る産業廃棄物処理施設設置許可申請をしたところ,同知事
は,上告人に対し,同7年5月10日,これを許可した。しかし,前記のとおり,
本件条例は水道法2条1項の規定に基づくものであり,本件処分は,本件施設を本
件条例2条5号所定の水道水源の枯渇をもたらし,又はそのおそれのある工場,そ
の他の事業場に当たるとしてされたものであって,廃棄物の処理及び清掃に関する
法律とは異なる観点からの規制をするものであるところから,上告人は,前記許可
を受けても,本件施設の設置をすることはできないままでいる。
 3 原審は,本件施設の計画地において地下水の取水がされるときは,c水源の
水位を著しく低下させるおそれがあるなどとして,本件処分は適法であると判断し
,上告人の請求を棄却すべきものとした。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 【要旨】本件条例は,水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者に
- 3 -
あらかじめ町長との協議を求めるとともに,当該協議の申出がされた場合には,町
長は,規制対象事業場と認定する前に審議会の意見を聴くなどして,慎重に判断す
ることとしているところ,規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な
制限を課すものであることを考慮すると,上記協議は,本件条例の中で重要な地位
を占める手続であるということができる。そして,前記事実関係等によれば,本件
条例は,上告人が三重県知事に対してした産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係
る事前協議に被上告人が関係機関として加わったことを契機として,上告人が町の
区域内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制定したものであり,
被上告人は,上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請
に係る手続を進めていたことを了知しており,また,同手続を通じて本件施設の設
置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を
執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。そうすると,被
上告人としては,上告人に対して本件処分をするに当たっては,本件条例の定める
上記手続において,上記のような上告人の立場を踏まえて,上告人と十分な協議を
尽くし,上告人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護
の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし,上告人の地位を不当に害
することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって,本件処分が
そのような義務に違反してされたものである場合には,本件処分は違法となるとい
わざるを得ない。

 ところが,原審は,上記の観点からの審理,判断を経ることなく,本件処分の違
法性を否定したものであって,原審の判断には,審理不尽の結果,判決に影響を及
ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は,この趣旨をいう
ものとして理由がある。
 5 以上によれば,憲法違反その他の論旨について判断するまでもなく,原判決
- 4 -
は破棄を免れず,上記の観点から審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこ
ととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷
 玄 裁判官 津野 修)
- 5 -




事件番号

 平成12(行ツ)209



事件名

 規制対象事業場認定処分取消請求事件



裁判年月日

 平成16年12月24日



法廷名

 最高裁判所第二小法廷



裁判種別

 判決



結果

 破棄差戻



判例集等巻・号・頁

 民集 第58巻9号2536頁




原審裁判所名

 名古屋高等裁判所



原審事件番号

 平成9(行コ)21



原審裁判年月日

 平成12年2月29日




判示事項

 a町水道水源保護条例(平成6年a町条例第6号)の規定に基づき指定された水源保護地域内に設置予定の施設が設置の禁止される事業場に当たるとした町長の認定は当該施設の設置を予定する事業者の地位を不当に害することのないよう配慮する義務に違反してされた場合には違法となるとされた事例



裁判要旨

 a町水道水源保護条例(平成6年a町条例第6号)が,町長の指定する水源保護地域内に,産業廃棄物処理業その他の所定の事業に係る事業場で水源の枯渇をもたらし,又はそのおそれがあるとの認定を町長から受けたものを設置することを禁止し,上記の認定については,上記地域内に上記事業に係る事業場を設置しようとする事業者と町長とがあらかじめ協議をし,町長が審議会の意見を聴くなどして上記の認定をするかどうかを慎重に判断することとしており,町長が,同条例に基づき,水源保護地域内に設置の予定されている地下水を使用する産業廃棄物処理施設が設置の禁止される事業場に当たると認定した場合において,当該施設を設置するにつき廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく設置許可の申請に係る手続が行われ,これに町が関係機関として加わったことを契機として,町の区域内に当該施設が設置されようとしていることを知った町が同条例を制定したものであること,上記手続を通じて当該施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会が町長に与えられていたことなど判示の事情の下では,町長は,上記の認定をするに先立ち,上記の協議において,当該施設を設置しようとする事業者に対し,予定取水量を適正なものに改めるよう適切な指導をしてその地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務を負い,上記の認定は,そのような義務に違反してされたものであれば,違法となる。



参照法条

 紀伊長島町水道水源保護条例(平成6年紀伊長島町条例第6号)2条,紀伊長島町水道水源保護条例(平成6年紀伊長島町条例第6号)11条1項,紀伊長島町水道水源保護条例(平成6年紀伊長島町条例第6号)12条,紀伊長島町水道水源保護条例(平成6年紀伊長島町条例第6号)13条,紀伊長島町水道水源保護条例(平成6年紀伊長島町条例第6号)別表,憲法94条
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