国立精神・神経医療研究センター部長松本俊彦先生が、毎日新聞記事で、とても大切なことを述べられておられます。
「必要なのは道徳教育ではない。「つらい気持ちに襲われた時、どうやって助けを求めたらいいか」「友達が悩んでいたら、どうやって信頼できる大人につなげたらいいか」「信頼できる大人はどこにいるか」を教えること。つまり、健康教育なのだ。」
道徳教育も大切かと思いますが、それ以上に、松本先生が述べられる、信頼できる友達・大人につながっていける力を養う健康教育もまた、やっていきたいものです!
********************毎日新聞************************************
http://mainichi.jp/shimen/news/20150611ddm013070016000c.html
松本俊彦のこころと向き合う:/3 若者の自殺予防教育とは
毎日新聞 2015年06月11日 東京朝刊
日本の自殺は、1998年に中高年男性を中心に急増し、14年間にわたって高止まりしてきた。だが、最近3年間は、確実に減少傾向を示している。
とはいえ、「これで一件落着」とはいかない。中高年層の減少幅に比べて、10〜30代という若年層の減少幅が小さいからだ。日本の15〜39歳の死因1位は自殺であり、先進国の中では例外的な現象だ。現在、日本の自殺予防における新たなターゲットは若者となっている。
若者の自殺予防というと、必ずお決まりの意見をいう識者がいる。いわく「早期からの教育が必要。小学校のうちに『命の大切さ』を教え、たたき込むべし」
この手の意見を聞くたび、私は「またか」と嘆息する。もちろんすべてが間違いではない。「早期からの教育」には賛成だ。なぜなら、20〜30代の自殺を考える者の多くは、既に10代から「消えたい、いなくなりたい、死にたい」と考えているからだ。
問題は教育の内容だ。命の大切さを教える授業とは、ともすれば「命の尊さ」「自分を大切に」「産んでくれてありがとう」の連呼になりやすい。しかし、自殺リスクの高い子どもの多くは、家庭や学校で暴力や自らを否定される体験にさらされる中で「人に助けを求めても無駄だ」と絶望している。そんな子どもに「命の大切さ」などという言葉は気休めにもならない。「命が大切なら、なぜ自分ばかりが殴られるのか。なぜ『あんたなんか産まなきゃよかった』と言われるのか」と新たな混乱を引き起こすだけだろう。
ベタな美辞麗句は教える側の自己満足にとどまり、追い詰められた子どもの胸には響かない。そればかりか「『死にたい』と考える自分は不道徳なのか」と自らを恥じ、助けを求めることにますます消極的となろう。その結果、将来の自殺リスクをむしろ高めてしまう危険もある。
必要なのは道徳教育ではない。「つらい気持ちに襲われた時、どうやって助けを求めたらいいか」「友達が悩んでいたら、どうやって信頼できる大人につなげたらいいか」「信頼できる大人はどこにいるか」を教えること。つまり、健康教育なのだ。
(まつもと・としひこ=国立精神・神経医療研究センター部長)
「必要なのは道徳教育ではない。「つらい気持ちに襲われた時、どうやって助けを求めたらいいか」「友達が悩んでいたら、どうやって信頼できる大人につなげたらいいか」「信頼できる大人はどこにいるか」を教えること。つまり、健康教育なのだ。」
道徳教育も大切かと思いますが、それ以上に、松本先生が述べられる、信頼できる友達・大人につながっていける力を養う健康教育もまた、やっていきたいものです!
********************毎日新聞************************************
http://mainichi.jp/shimen/news/20150611ddm013070016000c.html
松本俊彦のこころと向き合う:/3 若者の自殺予防教育とは
毎日新聞 2015年06月11日 東京朝刊
日本の自殺は、1998年に中高年男性を中心に急増し、14年間にわたって高止まりしてきた。だが、最近3年間は、確実に減少傾向を示している。
とはいえ、「これで一件落着」とはいかない。中高年層の減少幅に比べて、10〜30代という若年層の減少幅が小さいからだ。日本の15〜39歳の死因1位は自殺であり、先進国の中では例外的な現象だ。現在、日本の自殺予防における新たなターゲットは若者となっている。
若者の自殺予防というと、必ずお決まりの意見をいう識者がいる。いわく「早期からの教育が必要。小学校のうちに『命の大切さ』を教え、たたき込むべし」
この手の意見を聞くたび、私は「またか」と嘆息する。もちろんすべてが間違いではない。「早期からの教育」には賛成だ。なぜなら、20〜30代の自殺を考える者の多くは、既に10代から「消えたい、いなくなりたい、死にたい」と考えているからだ。
問題は教育の内容だ。命の大切さを教える授業とは、ともすれば「命の尊さ」「自分を大切に」「産んでくれてありがとう」の連呼になりやすい。しかし、自殺リスクの高い子どもの多くは、家庭や学校で暴力や自らを否定される体験にさらされる中で「人に助けを求めても無駄だ」と絶望している。そんな子どもに「命の大切さ」などという言葉は気休めにもならない。「命が大切なら、なぜ自分ばかりが殴られるのか。なぜ『あんたなんか産まなきゃよかった』と言われるのか」と新たな混乱を引き起こすだけだろう。
ベタな美辞麗句は教える側の自己満足にとどまり、追い詰められた子どもの胸には響かない。そればかりか「『死にたい』と考える自分は不道徳なのか」と自らを恥じ、助けを求めることにますます消極的となろう。その結果、将来の自殺リスクをむしろ高めてしまう危険もある。
必要なのは道徳教育ではない。「つらい気持ちに襲われた時、どうやって助けを求めたらいいか」「友達が悩んでいたら、どうやって信頼できる大人につなげたらいいか」「信頼できる大人はどこにいるか」を教えること。つまり、健康教育なのだ。
(まつもと・としひこ=国立精神・神経医療研究センター部長)