土壌汚染に関する重要な記事が、朝日新聞に掲載されていましたので、転載いたします。(2008年3月3日、朝日新聞、opinion)
畑明郎氏 大阪市立大学教授(環境政策)が、インタビューに答える形で、記事は構成されています。
途中、豊洲土壌汚染の問題も出てきます。
****以下、転載****
聞き手:全国で土壌汚染の報告が相次いでいます。なぜでしょう。
畑教授:自治体が事業者に調査を促したり、土地売買の時に購入者が調査を求めたりする傾向が強まっていることもあり、自治体が把握した事業者による土壌の調査件数が05年度に1149件と、00年度の5.4倍になっていることが大きい。そのうち約6割が環境基準を超えていた。これまで隠れていた汚染が一気に顕在化してきているとも言える。
聞き手:土壌汚染はどうして起きるのですか。
畑教授:主な汚染源は鉛などの重金属、ベンゼンなどの揮発性有機化合物を原料や溶剤として扱う工場、事業所だ。有害物質が施設や野外置き場から漏れたり、有害物質を含んだ産業廃棄物を敷地内に埋めたりして土壌が汚染され、やがて地下水は移動し、汚染が広がり飲み水も汚染する。見えない汚染といわれるゆえんだ。
聞き手:健康被害の例は。
畑教授:被害は公害の原点といわれる足尾鉱毒事件にさかのぼる。足尾鉱山から渡良瀬川へ排出された銅、鉛、ヒ素などによる農地汚染で、人や農作物に被害が出た。戦後は富山県のイタイイタイ病が有名だ。神岡鉱山から神通川へ排出されたカドミウムで農地と産米が汚染され、米を食べ続けて被害が起きた。近年は工場跡地など市街地で目立つ。03年には茨城県神栖市で井戸水を飲んだ住民がヒ素中毒になる事件が起きた。
聞き手:汚染対策のために二つの法律がありますね。
畑教授:農地の汚染を防ぐためにできたのが農用地土壌汚染防止法(70年制定)。政府はカドミウムで汚染された米を買い上げ、原因企業がお金を出して土壌の復元事業を行なっている。そして02年に市街地を対象に制定されたのが土壌汚染対策法(03年施行)。法律で指定された工場、事業場は、工場を廃止し宅地などに改変する際に土壌を調査し、自治体に報告。環境基準を超えると汚染土の除去などの対策を行う仕組みだ。
聞き手:対策法施行後5年でほころびがでてきました。
畑教授:問題は法律の抜け道が多いことだ。施行前に工場を廃止していたら調査義務はない。跡地にマンションがたつ例も多い。法律で指定されていない工場、事業所にも有害物質をつかうところはたくさんある。また、法律では工場を廃止しても宅地などに使わずにいれば調査を免れられる。05年度廃止された914件の8割がそうだ。ブラウンフィールド(放置、塩漬けされた土地)化が心配だ。
聞き手:東京・築地市場の移転予定先の江東区豊洲で、環境基準の千倍以上のベンゼンが検出されました。
畑教授:施行前に地主の東京ガスの工場が廃止しているから法律の対象外だ。都は同社の不十分な調査結果をうのみにして購入したが、その後の調査で汚染が発覚した。都には土地改変時に調査を義務づける条例があるのにこの有り様だ。工場や研究所の跡地が住宅地になったところも多く、何かの契機で汚染がわかれば住民紛争の火種となる。
聞き手:環境省が法改正を目指しています。たたき台となる識者の懇談会の報告書が3月にまとまりますが。
畑教授:2月に出た報告書案が指摘するように調査義務の範囲を広げることが不可欠だ。対象を法施行以前に廃止した工場、事業場に広げるとともに、土地改変や土地取引の時にも調査を義務づけてほしい。さらに法律で指定されていなくても有害物質を使用した履歴がある工場、事業所や有害物質を含む廃棄物の処理場跡地も対象にできれば、汚染状況は相当把握できる。
いまの制度では除去した汚染土がどこに運ばれているのかわからず、新たな汚染を起こす心配がある。搬出汚染土壌管理票をつけて確認することが重要だ。また、調査する項目が25項目にとどまっている。欧米のように生活環境や自然環境保護の観点を取り入れ、油類を指定してもいい。
聞き手:今は汚染土の除去が優先され、費用がかかりすぎると批判もあります。環境省は汚染の程度によって盛り土など手軽な対策を増やそうとしています。
畑教授:懇談会には産業界代表も複数いる。費用がかかりすぎると土地売買が進まないという事情があるのだろうが、盛り土覆土では将来も汚染土は存在し解決にならない。ある程度お金がかかってもリスクを下げ不安を取り除くことだ。対策法は汚染の原因者の責任が明確ではない。原因者の責任を追及、対策をとらせる法改正であってほしい。
聞き手:杉本裕明
■最近問題になった土壌汚染■
●大阪アメニティーパーク事件(大阪市)
三菱地所などが複合施設の土壌、地下水がセレンやヒ素で汚染されているのを知りつつマンションを販売。02年に発覚、大阪府警は宅地建物取引業法違反容疑で同社社長らと法人を書類送検。起訴猶予となった。地下水の浄化などを続行中。
●神栖市有機ヒ素中毒事件(茨城県)
03年、井戸水を飲用していた住民が有機ヒ素中毒に。汚染されたコンクリートがうめられ土壌と地下水を汚染していたことが環境省の調査で判明。原因者は不明。コンクリートと汚染土2100トンを撤去。
●北区・団地のダイオキシン汚染事件(東京都)
05年に豊島5丁目団地内から高濃度のダイオキシンが検出。都は、ダイオキシン類対策特別措置法で対策地域に指定、覆土工事中。日産化学工業の工場跡地でカセイソーダの製造中に発生したとされる。
****以上、転載終わり****
畑明郎氏 大阪市立大学教授(環境政策)が、インタビューに答える形で、記事は構成されています。
途中、豊洲土壌汚染の問題も出てきます。
****以下、転載****
聞き手:全国で土壌汚染の報告が相次いでいます。なぜでしょう。
畑教授:自治体が事業者に調査を促したり、土地売買の時に購入者が調査を求めたりする傾向が強まっていることもあり、自治体が把握した事業者による土壌の調査件数が05年度に1149件と、00年度の5.4倍になっていることが大きい。そのうち約6割が環境基準を超えていた。これまで隠れていた汚染が一気に顕在化してきているとも言える。
聞き手:土壌汚染はどうして起きるのですか。
畑教授:主な汚染源は鉛などの重金属、ベンゼンなどの揮発性有機化合物を原料や溶剤として扱う工場、事業所だ。有害物質が施設や野外置き場から漏れたり、有害物質を含んだ産業廃棄物を敷地内に埋めたりして土壌が汚染され、やがて地下水は移動し、汚染が広がり飲み水も汚染する。見えない汚染といわれるゆえんだ。
聞き手:健康被害の例は。
畑教授:被害は公害の原点といわれる足尾鉱毒事件にさかのぼる。足尾鉱山から渡良瀬川へ排出された銅、鉛、ヒ素などによる農地汚染で、人や農作物に被害が出た。戦後は富山県のイタイイタイ病が有名だ。神岡鉱山から神通川へ排出されたカドミウムで農地と産米が汚染され、米を食べ続けて被害が起きた。近年は工場跡地など市街地で目立つ。03年には茨城県神栖市で井戸水を飲んだ住民がヒ素中毒になる事件が起きた。
聞き手:汚染対策のために二つの法律がありますね。
畑教授:農地の汚染を防ぐためにできたのが農用地土壌汚染防止法(70年制定)。政府はカドミウムで汚染された米を買い上げ、原因企業がお金を出して土壌の復元事業を行なっている。そして02年に市街地を対象に制定されたのが土壌汚染対策法(03年施行)。法律で指定された工場、事業場は、工場を廃止し宅地などに改変する際に土壌を調査し、自治体に報告。環境基準を超えると汚染土の除去などの対策を行う仕組みだ。
聞き手:対策法施行後5年でほころびがでてきました。
畑教授:問題は法律の抜け道が多いことだ。施行前に工場を廃止していたら調査義務はない。跡地にマンションがたつ例も多い。法律で指定されていない工場、事業所にも有害物質をつかうところはたくさんある。また、法律では工場を廃止しても宅地などに使わずにいれば調査を免れられる。05年度廃止された914件の8割がそうだ。ブラウンフィールド(放置、塩漬けされた土地)化が心配だ。
聞き手:東京・築地市場の移転予定先の江東区豊洲で、環境基準の千倍以上のベンゼンが検出されました。
畑教授:施行前に地主の東京ガスの工場が廃止しているから法律の対象外だ。都は同社の不十分な調査結果をうのみにして購入したが、その後の調査で汚染が発覚した。都には土地改変時に調査を義務づける条例があるのにこの有り様だ。工場や研究所の跡地が住宅地になったところも多く、何かの契機で汚染がわかれば住民紛争の火種となる。
聞き手:環境省が法改正を目指しています。たたき台となる識者の懇談会の報告書が3月にまとまりますが。
畑教授:2月に出た報告書案が指摘するように調査義務の範囲を広げることが不可欠だ。対象を法施行以前に廃止した工場、事業場に広げるとともに、土地改変や土地取引の時にも調査を義務づけてほしい。さらに法律で指定されていなくても有害物質を使用した履歴がある工場、事業所や有害物質を含む廃棄物の処理場跡地も対象にできれば、汚染状況は相当把握できる。
いまの制度では除去した汚染土がどこに運ばれているのかわからず、新たな汚染を起こす心配がある。搬出汚染土壌管理票をつけて確認することが重要だ。また、調査する項目が25項目にとどまっている。欧米のように生活環境や自然環境保護の観点を取り入れ、油類を指定してもいい。
聞き手:今は汚染土の除去が優先され、費用がかかりすぎると批判もあります。環境省は汚染の程度によって盛り土など手軽な対策を増やそうとしています。
畑教授:懇談会には産業界代表も複数いる。費用がかかりすぎると土地売買が進まないという事情があるのだろうが、盛り土覆土では将来も汚染土は存在し解決にならない。ある程度お金がかかってもリスクを下げ不安を取り除くことだ。対策法は汚染の原因者の責任が明確ではない。原因者の責任を追及、対策をとらせる法改正であってほしい。
聞き手:杉本裕明
■最近問題になった土壌汚染■
●大阪アメニティーパーク事件(大阪市)
三菱地所などが複合施設の土壌、地下水がセレンやヒ素で汚染されているのを知りつつマンションを販売。02年に発覚、大阪府警は宅地建物取引業法違反容疑で同社社長らと法人を書類送検。起訴猶予となった。地下水の浄化などを続行中。
●神栖市有機ヒ素中毒事件(茨城県)
03年、井戸水を飲用していた住民が有機ヒ素中毒に。汚染されたコンクリートがうめられ土壌と地下水を汚染していたことが環境省の調査で判明。原因者は不明。コンクリートと汚染土2100トンを撤去。
●北区・団地のダイオキシン汚染事件(東京都)
05年に豊島5丁目団地内から高濃度のダイオキシンが検出。都は、ダイオキシン類対策特別措置法で対策地域に指定、覆土工事中。日産化学工業の工場跡地でカセイソーダの製造中に発生したとされる。
****以上、転載終わり****
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