最高裁H21.10.15場外車券発売施設設置許可処分取消請求事件(「サテライト大阪」事件)を考えます。
重要な判例です。
場外車券発売施設ができることによる生活環境の悪化を懸念し、周辺住民および医療施設の医師が、大阪で立ち上がった事案です。
こんなことないと思いますが、
築地市場を現在地で再整備すべきであるところ、違法な土壌汚染地への移転を東京都が強行し、その跡地に、カジノを誘致するなどの話が出た場合、中央区民としても立ち上がらねばならない状況にになります。
早くから、そのようなものはいれず、守るべきものを守るという強い意志を、私達は、持たねばならないと考えます。
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1、事案の概要
経済産業大臣が自転車競技法(平成19年法律82号による改正前のもの、以下「法」という。)4条2項に基づき、H17年9月26日付けで訴外株式会社Aに対し場外車券発売施設(以下「本件施設」という。)の設置許可(以下、「本件許可」という。)をしたところ、H18年3月に本件施設の周辺住民(原告・控訴人・被上告人)が本件許可の取消し求めた事案である。被上告人のうち4名は本件施設の設置から約120m、約180m、約200m、約800m離れた場所で病院等を開設する医師であり、その他は本件施設の敷地から1000m以内に居住し、または事業を営む者である。本件施設は、商業地域で建設される7階建て地下1階の建物であり、A社から競輪施行者である大阪市に対して賃貸され運営等を行うとされている。年間340日の営業と1日当たり約1700人の来場が見込まれていた(H19年3月に開業)。
2、訴訟選択
設置許可処分の取消訴訟
経済産業大臣が、平成17年9月26日付けで、A株式会社に対してした場外車券発売施設「サテライト大阪」の設置許可処分を取り消す。
3、争点
(1)本件許可の取消しを求める原告適格の有無
(2)①が肯定された場合、本件許可の適否
4、第1、2審等の判断
(1)第1審(大阪地判H19.3.14)
法や規則等は、原告の生活環境に係わる利益を個々人の個別具体的利益として保護する趣旨を含まないとして原告適格を全面的に否定。
*通達まで含め原告適格の判断材料にしている。
(2)控訴審(大阪高判H20.3.6)
法や規則等は、周辺住民の健康や生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護する趣旨であるなどとして全員に原告適格を認めた。
*通達まで含め原告適格の判断材料としている。
*風営法が、関係法令性を持たないとしている。
5、判旨(基本的に判決文を抜粋する形で記載)
一部破棄自判、一部破棄差戻し。
本判決は、小田急訴訟最高裁判決(最大判H17.12.7)の示した一般的な判断基準を引用して本件の原告適格について以下のように判示し、本件施設から200m以内で医療施設等を開設する3名につき、原告適格の有無に審議を尽くさせるため第1審に差し戻した。
(1)一般的に、場外施設が設置、運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化であって、その設置、運営により、直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定しがたい。そして、このような生活環境に関する利益は、基本的には公益に属する利益というべきであって、法令に手掛かりとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、競輪法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難である。
(2)ア位置基準は,場外施設が医療施設等から相当の距離を有し,当該場外施設において車券の発売等の営業が行われた場合に文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないことを,その設置許可要件の一つとして定めるものである。場外施設が設置,運営されることに伴う上記の支障は,基本的には,その周辺に所在する医療施設等を利用する児童,生徒,患者等の不特定多数者に生じ得るものであって,かつ,それらの支障を除去することは,心身共に健康な青少年の育成や公衆衛生の向上及び増進といった公益的な理念ないし要請と強くかかわるものである。法及び規則が位置基準によって保護しようとしているのは,第一次的には,上記のような不特定多数者の利益であるところ,それは,性質上,一般的公益に属する利益であって,原告適格を基礎付けるには足りないものであるといわざるを得ない。したがって,場外施設の周辺において居住し又は事業(医療施設等に係る事業を除く。)を営むにすぎない者や,医療施設等の利用者は,位置基準を根拠として場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解される。
イもっとも,場外施設は,多数の来場者が参集することによってその周辺に享 楽的な雰囲気や喧噪といった環境をもたらすものであるから,位置基準は,そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生にかかわる業務上の支障について,特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして,その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。したがって,仮に当該場外施設が設置,運営されることに伴い,その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には,当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。そうすると、当該場外施設の設置,運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は,位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するものと解される。そして,このような見地から,当該医療施設等の開設者が上記の原告適格を有するか否かを判断するに当たっては,当該場外施設が設置,運営された場合にその規模,周辺の交通等の地理的状況等から合理的に予測される来場者の流れや滞留の状況等を考慮して,当該医療施設等が上記のような区域に所在しているか否かを,当該場外施設と当該医療施設等との距離や位置関係を中心として社会通念に照らし合理的に判断すべきものと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件敷地の周辺から約800m離れた場所に医療施設を開設するXが位置基準を根拠として本件許可の取消を求める原告適格を有するとは言えないが、本件施設の周辺から約120mないし200m離れた場所に医療施設を開設するXらについては、上記の考慮要素を勘案することなく上記の原告適格を有するか否かを適格に判断することは困難と言うべきである。
(3)次に、次に,周辺環境調和基準は,場外施設の規模,構造及び設備並びにこれらの配置が周辺環境と調和したものであることをその設置許可要件の一つとして定めるものである。同基準は,場外施設の規模が周辺に所在する建物とそぐわないほど大規模なものであったり,いたずらに射幸心をあおる外観を呈しているなどの場合に,当該場外施設の設置を不許可とする旨を定めたものであって,良好な風俗環境を一般的に保護し,都市環境の悪化を防止するという公益的見地に立脚した規定と解される。また,「周辺環境と調和したもの」という文言自体,甚だ漠然とした定めであって,位置基準が上記のように限定的要件を明確に定めているのと比較して,そこから,場外施設の周辺に居住する者等の具体的利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を読み取ることは困難といわざるを得ない。
したがって,被上告人らは,周辺環境調和基準を根拠として本件許可の取消しを求める原告適格を有するということはできないというべきである。
6、差し戻し審以後
(1)差戻審(大阪地判H24.2.29)
差し戻しされた3名の原告適格を認めたものの、業務上の著しい支障の有無を具体的に検討した上その可能性は低いとして請求を棄却。
(2)同控訴審(大阪高判H24.10.11)
請求棄却。
7、本判例の意義と問題点
1、意義
場外施設をめぐる周辺住民等の原告適格を判断した最初の最高裁判決。
本判例は、健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益は法によって個別的に保護された利益であるとして医療施設等開設者には原告適格が認められる可能性があるが、他方、交通、風紀、教育上の良好な環境または良好な風俗環境は個別的に保護された利益ではないとして周辺住民・医療施設等利用者には原告適格を否定した。
2、問題点
周辺の生活環境の保護を適切に代弁できるのは、当然、周辺住民であろう。それゆえ、本件で問題となった環境利益を真に適切に代表できる者に原告適格を否定した本判決には大きな欠点がある。こうした欠点を克服するためには、a)個別保護要件を放棄する、b)個別保護要件をより柔軟に解釈適用する、c)生活環境の悪化から生ずる大きなストレス・不安感といった精神的・心理的被害も個別保護要件を満たす方向で解釈する、d)本判決がほとんど検討していない行訴法9条2項の第4考慮事項をより慎重に検討するなどいくつかの戦術があろう。(環境百選第2版98事件、常岡孝好)
8、関係法令
(1)自転車競技法(平成19年法律第82号による改正前のもの)4条1項、2項
第四条 車券の発売等の用に供する施設を競輪場外に設置しようとする者は、経済産業省令の定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。当該許可を受けて設置された施設を移転しようとするときも、同様とする。
② 経済産業大臣は、前項の許可の申請があつたときは、申請に係る施設の位置、構造及び設備が経済産業省令で定める基準に適合する場合に限り、その許可をすることができる。
(2)自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前のもの)14条1項、2項
(場外車券発売施設の設置等の許可の申請)
第十四条 法第四条第一項の規定により、競輪場外における車券の発売等の用に供する施設(以下「場外車券発売施設」という。)の設置又は移転の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した許可申請書を、当該場外車券発売施設を設置し又は移転しようとする場所を管轄する経済産業局長を経由して、経済産業大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
二 場外車券発売施設の設置又は移転を必要とする理由
三 場外車券発売施設を設置し又は移転しようとする場所
四 場外車券発売施設の構造及び設備の状況
五 場外車券発売施設の敷地に係る土地又は建物に関する権利関係
六 入場者数及び車券の発売金額の見込み並びにそれらの計算の基礎
七 場外車券発売施設の設置又は移転に必要とする経費の見積額及びその計算の基礎並びに経費の調達方法
八 場外車券発売施設が払戻金の交付を当該交付に係る競走が実施される日のすべての競走が終了するまで行わない施設であるときは、車券の発売等の時間その他の運用方法
2 前項の許可申請書には、次に掲げる図面を添付しなければならない。
一 場外車券発売施設付近の見取図(敷地の周辺から千メートル以内の地域にある学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設の位置並びに名称を記載した一万分の一以上の縮尺による図面)
二 場外車券発売施設を中心とする交通の状況図
三 場外車券発売施設の配置図(千分の一以上の縮尺による図面)
(3)自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前のもの)15条1項1号
(許可の基準)
第十五条 法第四条第二項の経済産業省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設の基準を除く。)は、次のとおりとする。
一 学校その他の文教施設及び病院その他の医療施設から相当の距離を有し、文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないこと。
(4)自転車競技法施行規則(平成18年経済産業省令第126号による改正前のもの)15条1項4号
(許可の基準)
第十五条 法第四条第二項の経済産業省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設の基準を除く。)は、次のとおりとする。
四 施設の規模、構造及び設備並びにこれらの配置は、入場者の利便及び車券の発売等の公正な運営のため適切なものであり、かつ、周辺環境と調和したものであって、経済産業大臣が告示で定める基準に適合するものであること。
以上
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