釧路湿原地帯での津波堆積物調査を見学してきました。
調査をしてくださっているのは北大理学部で津波堆積物調査を行っている西村准教授とその部屋のNさん。
津波堆積物とは、過去に大きな津波が発生した場合に波によって海由来の砂や貝などが運ばれてその土地の地層として痕跡が残ることを言います。
都市化の進展がそれほどでもない湿原など、人為的な土地の改編があまり行われていない道東では、かねてより津波堆積物の調査がかなり熱心に行われています。
釧路では今年の6月に津波被害想定が見直されて、1000年という期間で見た場合に釧路湿原まで届くような大きな津波が発生する可能性が指摘されたばかりです。
昨年3.11に発生した大地震と大津波の前後でデータは何も変わっていないのに、解釈の仕方一つで津波想定は低くもなれば大きくもなるというおかしなことになっています。
では真実はどこにあるのかと言えば、やはり『現場にある』と答えましょう。
そこで今日は、津波堆積物がどうなっているのかを調査している現場へお邪魔して、調査の実態を見せていただいたのです。
※ ※ ※ ※ ※
今日の調査の場所は、閉校になっている釧路西高校舎の東側に広がる湿原地域。

【原野へどんどん足を踏み入れます】
ここで、ジオスライサーという道具を使って地層を薄く引き抜き、地層がどのようになっているのかを観るのです。

微妙な微地形を読み解き、かつてミニ砂丘だった高いところは避け、低いところを狙ってジオスライサーを打ち込みます。
それを包むようなもう一枚の金属を打ち込むと、ジャッキのような道具で打ち込んだスライサーを持ち上げます。

すると厚さ2センチほどの土壌が薄く採取されて、地層が白日の下にさらされるのです。

【余計なものを取り除いて地層だけを見る】
我々が見せてもらうと、地上面から10センチのどのところに白い火山灰が数センチの厚さで見えます。
「これは火山灰ですか?」と訊くと、「そうです、1700年前後の樽前の噴火ですね。実はこの前後にも薄い火山灰が我々には綺麗に見えています。これは駒ケ岳と樽前の噴火の火山灰で、この三つの層がきれいに出ていることで、ここが1700年ころの地層だと分かります」

「ははあ、なるほど」
「次にずっと下の方にもよくよく見ると火山灰が見えるのですが、これが平安時代の火山噴火に由来する火山灰であることは明らかです」
「いやあ、我々が見ても良くわかりませんね」
「私たちだって簡単に見破られるわけではありません。最後には部屋へ持ち帰って顕微鏡で細かい粒子の中を見て、海由来の物かどうかを判断しなくてはなりません。良く、「小高いところを掘って砂が出ればそこには津波が来た、かのようなことを言う人がいますが、海由来の砂かどうかが分からないぎりぎりのところでは顕微鏡などで細かい調査を行うわけで、パッと見て、『ああ、海由来の砂ですね』などというのが分かるのは、本当に海の近くだけなんです」
※ ※ ※ ※ ※
西村先生は、ここは、と思うところを何カ所か掘って、一応地層が良くあらわれている一枚をもって標本を作ることにしました。
掘り出したジオスライサーの表面を少し綺麗にして、そこへ白い寒冷紗と呼ばれる薄いメッシュの生地を置きます。

布の上から糊をつけてゆき、染みさせます】
そこへ特殊なノリを塗り、乾いたころに寒冷紗をはぎ取ると、特殊なノリは土壌の細かいところへ入り込んで地層をそのままはぎとれるというわけです。
西村先生はその後も日没まで何本かサンプルを採取して歩きましたが、どうやら明確な砂の痕跡は見出し難かったよう。

【私も標本サンプルをはがす手伝いをしました】
「西村先生は、この結果をどう見ますか?」
「あくまでも直感的に言えば、浸水深さ1m以上となるような大規模な津波が常習的に襲っているという印象は捕えられませんでしたね」
言い回しはあくまでも慎重で、ないということを証明するのは極めて難しいということだけです。
「つなみ堆積物も、一カ所だけ掘って出た、出ないと一喜一憂することはありません。何カ所も掘り続けることで地層を見る目も養われるし、地域の面的な地層の分布を知ることができます。またそうやって数を見なくては面的な古地形の現実がよくわからないのです」
※ ※ ※ ※ ※
実際に現場の地層を掘り出したものを見てみると、地層を読み取るというのは実はかなり鍛え上げられた眼力が必要なのだと思い知りました。
「このあたりは市街地のぎりぎり最先端部分なので、特に洪水があったとしても、水深が浅くて砂というよりはせいぜい泥が溜まるくらいだったのだと考えられます」
日本に住む者にとっては、地震や津波がないことは理想とは言え、そうはならないことをよく知っています。
今回のような地道な調査の結果、初めてある種のモデルが頭に浮かぶのだそう。
科学的な知見を集めることこそが、正しい判断の源です。
西村先生の活動に敬意を表しつつ、釧路にとって有益なデータが出ることを期待しています。今日はありがとうございました。
調査をしてくださっているのは北大理学部で津波堆積物調査を行っている西村准教授とその部屋のNさん。
津波堆積物とは、過去に大きな津波が発生した場合に波によって海由来の砂や貝などが運ばれてその土地の地層として痕跡が残ることを言います。
都市化の進展がそれほどでもない湿原など、人為的な土地の改編があまり行われていない道東では、かねてより津波堆積物の調査がかなり熱心に行われています。
釧路では今年の6月に津波被害想定が見直されて、1000年という期間で見た場合に釧路湿原まで届くような大きな津波が発生する可能性が指摘されたばかりです。
昨年3.11に発生した大地震と大津波の前後でデータは何も変わっていないのに、解釈の仕方一つで津波想定は低くもなれば大きくもなるというおかしなことになっています。
では真実はどこにあるのかと言えば、やはり『現場にある』と答えましょう。
そこで今日は、津波堆積物がどうなっているのかを調査している現場へお邪魔して、調査の実態を見せていただいたのです。
※ ※ ※ ※ ※
今日の調査の場所は、閉校になっている釧路西高校舎の東側に広がる湿原地域。

【原野へどんどん足を踏み入れます】
ここで、ジオスライサーという道具を使って地層を薄く引き抜き、地層がどのようになっているのかを観るのです。

微妙な微地形を読み解き、かつてミニ砂丘だった高いところは避け、低いところを狙ってジオスライサーを打ち込みます。
それを包むようなもう一枚の金属を打ち込むと、ジャッキのような道具で打ち込んだスライサーを持ち上げます。

すると厚さ2センチほどの土壌が薄く採取されて、地層が白日の下にさらされるのです。

【余計なものを取り除いて地層だけを見る】
我々が見せてもらうと、地上面から10センチのどのところに白い火山灰が数センチの厚さで見えます。
「これは火山灰ですか?」と訊くと、「そうです、1700年前後の樽前の噴火ですね。実はこの前後にも薄い火山灰が我々には綺麗に見えています。これは駒ケ岳と樽前の噴火の火山灰で、この三つの層がきれいに出ていることで、ここが1700年ころの地層だと分かります」

「ははあ、なるほど」
「次にずっと下の方にもよくよく見ると火山灰が見えるのですが、これが平安時代の火山噴火に由来する火山灰であることは明らかです」
「いやあ、我々が見ても良くわかりませんね」
「私たちだって簡単に見破られるわけではありません。最後には部屋へ持ち帰って顕微鏡で細かい粒子の中を見て、海由来の物かどうかを判断しなくてはなりません。良く、「小高いところを掘って砂が出ればそこには津波が来た、かのようなことを言う人がいますが、海由来の砂かどうかが分からないぎりぎりのところでは顕微鏡などで細かい調査を行うわけで、パッと見て、『ああ、海由来の砂ですね』などというのが分かるのは、本当に海の近くだけなんです」
※ ※ ※ ※ ※
西村先生は、ここは、と思うところを何カ所か掘って、一応地層が良くあらわれている一枚をもって標本を作ることにしました。
掘り出したジオスライサーの表面を少し綺麗にして、そこへ白い寒冷紗と呼ばれる薄いメッシュの生地を置きます。

布の上から糊をつけてゆき、染みさせます】
そこへ特殊なノリを塗り、乾いたころに寒冷紗をはぎ取ると、特殊なノリは土壌の細かいところへ入り込んで地層をそのままはぎとれるというわけです。
西村先生はその後も日没まで何本かサンプルを採取して歩きましたが、どうやら明確な砂の痕跡は見出し難かったよう。

【私も標本サンプルをはがす手伝いをしました】
「西村先生は、この結果をどう見ますか?」
「あくまでも直感的に言えば、浸水深さ1m以上となるような大規模な津波が常習的に襲っているという印象は捕えられませんでしたね」
言い回しはあくまでも慎重で、ないということを証明するのは極めて難しいということだけです。
「つなみ堆積物も、一カ所だけ掘って出た、出ないと一喜一憂することはありません。何カ所も掘り続けることで地層を見る目も養われるし、地域の面的な地層の分布を知ることができます。またそうやって数を見なくては面的な古地形の現実がよくわからないのです」
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実際に現場の地層を掘り出したものを見てみると、地層を読み取るというのは実はかなり鍛え上げられた眼力が必要なのだと思い知りました。
「このあたりは市街地のぎりぎり最先端部分なので、特に洪水があったとしても、水深が浅くて砂というよりはせいぜい泥が溜まるくらいだったのだと考えられます」
日本に住む者にとっては、地震や津波がないことは理想とは言え、そうはならないことをよく知っています。
今回のような地道な調査の結果、初めてある種のモデルが頭に浮かぶのだそう。
科学的な知見を集めることこそが、正しい判断の源です。
西村先生の活動に敬意を表しつつ、釧路にとって有益なデータが出ることを期待しています。今日はありがとうございました。