母からただならぬ様子の電話がかかってきました。
「いやあ、突然書類が送られてきてさ、『あなたはこの方の土地の相続人です』って言うんだけど、そんな人を知らないんだよね。これって詐欺じゃないんだろうか?気持ちが悪いからこの書類を見てくれない?」
「どこからの書類でどこの土地ってなってるの?」
「〇〇開発建設部で、××川の用地ってなってる」
まあ公共事業に慣れている人であれば、公共事業のための土地取得手続きなんだろうな、と直感するわけですが、そういうことが分からないと驚いてしまうことでしょう。
書類の中には、この事業の概要が記されていて『この土地が事業に必要な事』が説明されています。
しかし母には「あなたはこの方の土地の相続人なのです」と言われても、その人の名前に心当たりがありませんでした。
実は母は幼い時に既に亡くなっている両親(私には母が他の祖父母)のもとに養女として迎えられており、そのときに祖父母は「元の家のことは話さない」と決めていたようで、元の姓が何なのかも知らされていなかったのです。
それが20年ほど前に先方の親類から手紙が来て、「あなたは□□家からそちらへ養女になったんです」といういきさつが知らされ、二三度は手紙の主とも会ったようですが、いつしかその縁も途切れたところでした。
公共事業で土地を取得する場合、持ち主が亡くなっていたときは、その財産を相続する権利を持った人を事細かに調べ上げて全ての持ち主の同意を得なければ取得ができません。
そのため、何代も前の先祖の土地が突然目の前にふってくるようなこともあるわけです。
いずれにしてもこれ以上母に余計な苦労はさせたくないので、書類を私が引き取って、「連絡が欲しい」と連絡先が書かれたコンサルタントには私から連絡をすることにしました。
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送られてきた書類には「内容の説明をしたいので、電話番号と電話ができる都合の良い日にち、時間帯を教えてほしい」とありました。
内容に想像がつく私としては先方に電話をして「こちらから出向きますので説明してくださいますか」と直接会いたいと告げて面談することに。
実際に会ってみるともちろん詐欺などではなく、正当な公共事業手続きにまちがいありません。
そのうえで、「母に相続権がある土地に対してはどのような対応が考えられますか」と訊ねてみました。
すると「三つの方法があります」とのこと。
それは、①相続権のある分を相続する、②相続権のある者から代表者を定めて交渉させる、③相続を放棄する、の三つなのだと。
「で、それぞれにどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか?」と訊くと、「②について、実は相続権者は代替わりによって700名ほどになっているので、現実的ではありません。また③は相続権があることが分かってから3か月以内に本人が裁判所に申し立てて相続を放棄する手続きを取らなくてはならず、かなり面倒です」とのこと。
「なるほど」
「そして①の相続ということであれば、全員の意向が確認された後ではありますが、土地の買い取り額が一人ひとりにどれくらいの割合になるかを土地を取得する側が算定して連絡してきます。それを受け取る際には印鑑証明付きの印鑑が必要ですが、受け取りの書類を作るだけなのでもっともご苦労は少なかろうと思います」
もっとも適切な対応は①だろうという事でその方針を伝え、今後はこれらの手続きは母の代理人として私が行うこととして書類のやり取りも私宛に送付してもらうように告げてきました。
内容が分かれば何の不安もないことですが、何も知らないと突然遺産相続の話が舞い込んでくると、詐欺を疑ったり不安になるのも無理はありませんね。
しかしながらこの手の詐欺も多いことでしょう。
分からなければ信頼できる誰かに相談をいたしましょう。