興趣つきぬ日々

僅椒亭余白 (きんしょうてい よはく) の美酒・美味探訪 & 世相観察

急ぐ時でも墨を磨れ

2010-06-30 | 余白の創作ことわざ

「余白の創作ことわざ」の第7回です。

急ぐ時でも墨を磨れ   いそぐときでも すみをすれ

<意味>
(墨を硯で磨るのは時間のかかるものだが、) 時間的に切迫した状況下にあっても、墨を磨らなければならない時には墨を磨れ。 どうしてもやらねばならないことは、たとえ時間がなくても慌てずうろたえず、あきらめず、心を静めてやってみろ。 意外にできてしまうものだ。

<さらに一言>
わたしが小学生のときのことです。 冬休みが終わり、三学期の始まる日の朝のことでした。
前夜遅くまでかかって書いた書き初めの宿題の、清書した分がなくなっていたのです。

状況を詳しく覚えていないのですが、前の晩わたしが間違って捨ててしまったか、朝、母が書き損じと思い捨ててしまったかのどちらかでしょう。

登校しなければならない時間が迫っていました。
オロオロとうろたえ、泣き叫ぶわたしを見て、母はこう言いました。
「今、やんなさい」
そして硯に水を注ぐと、墨を磨り始めたのです。

なんとか書き上げたわたしの “涙入り書き初め” を、母はすぐ炭火で乾かしてくれました。
宿題は、間に合ったのです。


その後の社会生活の中で、このような時間切迫の場面に何度も出くわしました。そんな時わたしはこの ‘書き初め事件’ のことをよく思い出したものです。

それが教訓となってその都度冷静に対処できたかというと、そうでもありませんが・・・。

<もう一言>
今小学校では、かなり以前から書道の時間に硯で墨を磨ることはやっていないそうです。 時間も無いので墨汁を使うとのこと。
わたしのこの ‘墨を磨れ’ という 「創作ことわざ」 は、今の子供たちや若い人にとっては実感のないものであるかもしれません。

筆で文字を書くことだけでなく、心を静め時間をかけて硯で墨を磨ることも、‘書道教育’ の重要部分を成すのではとわたしは考えますが、いかがでしょうか。



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4 コメント

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Unknown (からす)
2010-07-04 06:50:39
良いことわざだと思いますよ!
墨を磨る作業は、こころを落ち着ける作業だと思うんです。
心の中の波を、墨を磨るという単純作業で凪にしていく。

わたしは
「急ぐ時でもコーヒーをドリップで」
を実践しています。
多分、同じ効果で、同じ意味です。

たしかに、子供達は、書き初めで硯はあっても墨はみなかったような・・・。
あるのかなぁ・・・。聞いてみよう。
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余白にふさわしい表現 (ニシカジ)
2010-07-04 12:43:24
先日、年長の知人の作品を見に書道展に出かけました。会場で折よく出会えた知人は、春に大腿骨を骨折されたよしで、まだ足を少し引きずりぎみでしたが、作品にはそんなことを感じさせない広がりがあります。書について何の素養もありませんが、濃淡のある仮名文字を中心に、軽やかで温かい心が感じられ、しばし時を忘れることができました。
そんな一時の後で、余白氏の創作ことわざにふれ、初めてコメントを書き込みます。
これまでの作品のなかで、格段の出来だと思いました。なぜかというと、「墨を磨る」ことが文字どおりの意味だけでなく、比喩として広がりが感じられるからではないでしょうか。
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時間効率を図るだけでは・・・ (余白)
2010-07-04 21:43:45
心の中の波を墨を磨ることで凪にしていく・・・
からすさん、良い言葉ですね。 その通りと思います。
凪の中でしか得られないものも「教育」の中にはあるはずですものね。
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ありがとうございます (余白)
2010-07-04 22:09:43
ニシカジさん、ようこそおいでくださいました。
なるほど、墨筆の世界は「上手い下手」だけでなく、
心のありようを書ほど率直に表現してしまう(意図せずともされてしまう)ものも
無いかもしれませんね。
わたしこそ書の素養はありませんが、上手い字を書くといういわゆる“教育”を超え、
「軽やかで温かい心」を養う術にもなるのでは、とさえ思ってしまいました。
コメントありがとうございました。
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