助演にピーター・フォンダや、ワンシーンだけの出演だがジーン・ハックマン(「俺たち」ではビーティの兄役)といったちょっと後の時期にアメリカンニューシネマを支えた俳優たちが顔を揃えている。
製監督のロバート・ロッセンは「オール・ザ・キングスメン」でアカデミー賞を受賞するも赤狩りで仲間を“売った”ことでキャリアを屈折させたが「ハスラー」を大ヒットさせ、その勢いで製作監督脚本とオールマイティに近い体制でこれを作ったのだが、興行的には大失敗、遺作となった。
期せずしてハリウッドの世代交代の端境期の終わりに位置したみたいなタイミングだが、ニューシネマがベトナム戦争が影を落としているように、ここでも主人公が戦争帰り(第二次大戦か朝鮮戦争か、とにかくアメリカはほとんど途切れなく戦争しているわけで)という設定で、しきりと人のためになることをしたいと言い続けるのがかえってどこかトラウマを抱えている感じで、意外と地続きでいたりするのかもと思った。
精神に障害を抱えた人たち(とはいっても経済的には月に何千ドルも支払えるくらい余裕がある)に作業療法士として勤めるようになった青年ビーティが、そこで暮らしている美女ジーン・セバーグに次第に取り込まれるように異常な精神状態になっていく、というより、内なる自分の歪みに目覚めていくといった構造と思える。
ジーン・セバーグ自身がのちに鬱病に悩まされて自殺しているのが不吉な影を添えているのだが、映画の中では統合失調症という設定、というより正確な精神医学の症状の再現より昔のニンフォマニアの誘惑的なイメージに近いのではないか。
主役二人が美男美女すぎるくらい、白黒撮影の自然の風景描写がどこか現実離れしているようで、ジーン・セバーグが登場するシーンの多くが水のそばでニンフのイメージを重ねているのかと思わせる。タイトルのリリスはユダヤの伝承で語源は夜、イブより先の最初の女と言われたりしているらしい。
ヒロインがバイセクシャルらしく女と浮気するので大いに混乱するなど、この当時とするとかなり突っ込んだ描写ではなかったか。
Amazon Primeで見られるとは思っていなかった。
リリス - 映画.com