「ポゼッション」のアンジェイ⋅ズラウスキー監督のデビュー作。
「ポゼッション」に見られたモチーフがすでにここでいくつも見られる。
妻と妻そっくりの別の女性が登場すること、妊娠と出産を一種グロテスクに描くセンス、など。
妻のみならず、しまいに主人公の男自身が人格の分裂を見せるあたり、抑圧された状況下のアイデンティティーの不安定化とも、他人(殊に女性)も自分も信じられなくなった状態の反映ともとれる。
シラミに血を吸わせるアルバイトで口糊をしのぐ、というあたり、シラミは戦時中の不潔さの現れだろうし、文字通り生き血を吸わせているグロテスクな連中(役人でも、占領者でも、単にはしっこい奴でも)に頼って生きている図とも取れる。
しまいには生きていること、生まれてきたこと自体にまで遡って違和感を提示しているようでもある。原作が父親の小説というのも暗示的。
もっとも、そういった解釈以上に重要なのはそういう具合にデフォルメして描く作者の想像力の質と、異様に不安定な映像そのものの感触、つながらないストーリーがもたらす違和感と裏腹の磁力の方だろう。
後年、フランスに行ってカメラワークも広角レンズとエキセントリックな移動撮影を多用するスタイルを美的に精練させるわけだが、この泥臭くも荒々しい第一作で十分作家性は確立している。