ボクシングを扱った映画は栄光か破滅か極端に向かいやすいのだが、複数の主役キャラクターにそれぞれ両方を混淆して、さらに彼らが勝ち負けほかを通じて立場が逆転したり交錯したりする、その様相が多彩で豊か。
新入りにも親切で言葉遣いも丁寧で基本を誰よりも知っているけれど、いざ試合となると負けてばかりの松山ケンイチ。
口から出任せからボクシングを始めたのがだんだんはまっていき、意外な素質を見せ、しかし即才能開花とはいかない柄本時生。
ボクサーとしての才能には最も恵まれ、女性にも恵まれながらじりじりと脳の障害が進行している東出昌大。
勝負の結果は予想した通りになるのとならないのと、試合の結果だけでなくその後のダメージを含めて常に揺れ続ける。
松山ケンイチが単なるいい人ではないのを覗かせるのが説得力がある。
ボクシングシーンもリアルだが、そこを追及する(と、やはり本物のボクサーにはかなわない)よりは、日本王者までいってもまだ別に仕事を持って生計を立てないといけないところほか、周囲の人間を含めた生活描写のリアリティの厚みを見せる。
そして全体として栄光と破滅のどちらにも振り切らないで、それらに共通する一種のロマンティズムが出てくるラスト。
先日の「アンダードッグ」といい、日本映画で未開拓に近かったボクシング映画に秀作が続くのは、日本が貧乏になったのと、俳優の役づくりのフェーズが上がったのと両方ありそう。