文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:もののけの正体―怪談はこうして生まれた

2014-10-24 20:32:31 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
もののけの正体―怪談はこうして生まれた (新潮新書)
クリエーター情報なし
新潮社


 江戸時代を中心として、さまざまなもののけたちを紹介して、彼らがどのように生まれてきたかを探ろうという、「もののけの正体―怪談はこうして生まれた」(原田実:新潮社新書)。

 本書では、まず第1章で、日本の代表的なもののけである」、鬼、天狗、河童を例にとり、その起源と変遷のようすが語られる。現在では、これらのもののけに対しては、共通認識のようなイメージがある。鬼は、頭に角が生えており、虎皮の褌を穿いて、手には金棒を持っている。天狗は山伏姿で鼻が異様に長い。河童は、頭に皿を載せ、背中には甲羅をしょっていると言った具合だ。しかし、初期のころの彼らの姿は全く異なっていたようだ。鬼は、なんだかよく分からないが、人を食うもので、天狗は、殆ど鳥のような姿をしていた。河童だって、全身毛むくじゃらの猿のような姿だったのである。これらが、次第に、現在認識されているような姿に、変化して行った訳だが、それとともに、恐ろしいだけの存在から、定型化が進むにつれて、愛される存在、人を助ける存在といった性質も付加されていったというのはなんとも興味深い。

 第2章は、累、小幡小平治、玉藻前といったような江戸時代の人気もののけについてだ。累は、三遊亭圓朝の「真景累ケ淵」に出てくるあの累だ。小幡小平治は、現在ではあまり知名度はないが、江戸時代は、累と共に、他のもののけを圧倒するくらいの人気があった。そして玉藻前とは九尾の狐のことである。これらの大スター?と並んで紹介されているもののけの中に、ちょっと気になる存在がいる。それが「豆腐小僧」だ。小僧がただ、豆腐を持って立っているだけのもののけであるが、その由来はよく分からないらしい。なんとも間の抜けたその姿は、意外と人気があったようで、今でいう「ゆるキャラ」の元祖と言えるような存在だろう。

 続く第3章では、江戸時代の妖怪図鑑ともいえる、「絵本百物語」に出てくる妖怪たちが紹介されている。この章にも、興味深いもののけたちが多く出てくるが、面白いのを一つだけ挙げておこう。「寝肥」というもののけである。起きているうちは美女だが、寝ると、体が座敷いっぱいに、でっぷりと広がってしまい、大いびきをかくという。当時は、男性社会の中で、怠惰な女性を戒めるような意味があったのだろうが、女性の強くなった現在では、また違った意味になってくるかもしれない。いや、この件に関しては、これ以上のコメントは避けよう(笑)。

 そして、第4章、第5章に出てくるのは、それぞれ琉球、蝦夷地のもののけである。この地にも、さまざまなもののけ伝説がある。沖縄のキジムナーとアイヌ民族に伝わるコロボックルの話は有名だろうが、この他にも、いろいろな種類がある。興味のある方は、これらを研究してみるのも面白いだろう。

 「もののけ」というと、今でいう「妖怪」のことを連想してしまうが、本書で扱う「もののけ」は、「幽霊」なども含まれ、少しレンジが広く設定されている。それぞれの「もののけ」が生まれて来たのには、なんらかの理由があったのだろう。それにしても、これだけ様々な「もののけ」を考え出した我々の先祖の想像力には感心してしまう。「もののけ」に興味がある方は、ぜひ読んでおきたい一冊である。

☆☆☆☆

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