赤い右手 (創元推理文庫) | |
クリエーター情報なし | |
東京創元社 |
ジョエル・タウンズリー・ロジャーズの怪作、「赤い右手」(夏来健次訳:東京創元社)。「このミステリーがすごい!」の’98年版海外編で第2位だった作品で、17年を経て文庫化されたという。読んでみて思ったのは、なかなか一筋縄ではいかない作品だということと、なぜもっと早く文庫化されなかったのだろうかということだ。
語り手はハリー・リドルという外科医。乗っていた車が、田舎道の三叉路で故障して動かなくなってしまった。ところが、彼が車をなんとか動かそうとしている間に、恐ろしい事件が起きていたのだ。イリス・セントエーメという実業家とその美しい婚約者エリナ・ダリーが結婚のための車で旅行中に、不気味な浮浪者を拾った。親切心で乗せたその浮浪者が、セントエーメを襲い、瀕死の彼を車に乗せて連れ去ったのだ。その車は、ハリーが立ち往生していた場所を通ったはず。しかし、ハリーはそんな車は見なかったという。
作品の設定は、いかにも猟奇的だ。まず犯人と目されている浮浪者の容姿。ぼさぼさの頭で、ぼろぼろの服装、赤い目と避けた耳、そして乱杭歯。もう見ただけで、怪しさ満点である。さらに、被害者のセントエーメの死体は、額の皮を剥がされ、頭には手術道具で穴を開けられていた。おまけに、右手は切断されてどこにいったか分からないという状況である。
被害者は、セントエーメだけではなかった。その後も、人が次々に殺されていく。ハリーは、殺人鬼を野に放つ訳にはいかないと、事件の状況を逐一メモに起こして整理し、真相を解明しようとする。この作品は、読者が彼のメモを読んでいるという設定になっているのだ。そのメモからは意外な真犯人があぶり出されてくる。一見殺人鬼による猟奇的な連続殺人事件に見えたものに、これほど複雑な裏があったとは誰も思わないだろう。
ハリーが、真犯人について突然閃く辺りは、多少唐突な気もするが、その後で、事件の一連の出来ごとについて巧妙な説明をつけているので、あまり気にならずにに、一気に読まされてしまう。ただ、犯人が名乗っていた名前についての意味づけなどは、さすがに少し話を作り過ぎているのではないかと思う。そこまで凝って犯罪を計画するとしたら、犯行を単なるゲームとしか考えていないような人物だろう。犯人は狡猾で、犯行は、自分にとっての実利を追求したものである。そんな犯人が、自分を暗示するような偽名など使うまい。
また、この作品には、そこかしこに、読者を迷わすような、小細工も仕掛けられているので、一生懸命読めば読むほど、作者の仕掛けた罠に嵌って、ミスリードしてしまうようなところもある。確かに面白いが、その意味では、少しタチの悪い作品だと言えるかもしれない(笑)
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