静おばあちゃんにおまかせ (文春文庫) | |
クリエーター情報なし | |
文藝春秋 |
・中山七里
主人公の葛城公彦は、警視庁捜査一課の刑事だ。階級は巡査部長で、年齢は25歳。自分に自信がないが、隣県に移動した元上司の無実を晴らすために奔走するような、なかなかに熱いキャラである。
本書で扱われるのは5つの難事件。上述の元上司にかかった冤罪事件、外国人労働者にかかった冤罪事件、密室殺人事件など。実は彼は、事件が発生すると、恋人で法律家を目指している高円寺円の知恵を借りるのだ。第一話では、二人はまだ恋人未満の関係だったのだが、第3話のあたりで、名実ともに恋人関係になった。
しかし実際には、元高裁の裁判官だった円の祖母が事件を解決しているのである。なにしろ円から、事件の概要を聞いただけで、たちどころに解決するのだ。究極の安楽椅子探偵だろう。
この連作短編集においては、葛城刑事と円のコンビが色々な難事件に挑むというエピソードが本書の横糸となるだろう。これとは別に、全体を通しての縦糸として、円から両親を奪った交通事故の真相の追求がある。
両親が事故にあった際に、円は中学生でいっしょだった。その時、事故を起こした犯人から酒の匂いがしたのだが、裁判の過程ではアルコールは検出されなかった。第4話で円はその犯人と対面するのだが、彼女に記憶にある人物とはどうも違う。その謎を解くというのが全体を通してのテーマとなっている。
最後に明らかになる円の祖母については驚き。最近は、あまり小説は読まないのだが、これは面白くて一気読みしてしまった。
☆☆☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。