血 | |
クリエーター情報なし | |
中央公論新社 |
・新堂冬樹
本書の内容を一言で言えば、あるサイコパスの物語ということだろうか。この作品は、主人公の本庄沙耶という女子高生。しかし、どこでもいるという女子高生ではない。自分に流れる血を憎み、同じ血が流れる人間を消し去ろうとする。
父方の祖父母は無理心中、両親は目出し帽の男に刺殺される。沙耶はこの後、母方の祖父母、父方の叔父、母方の伯母に引き取られていくが、行く先々で、自分の血筋に当たるものを殺害していくのである。その方法が、デス・ストーカーである猛毒サソリを使ったり、車に爆弾を仕掛けたりというものだが、どのように沙耶がこれらの方法を考えるのかというところがこの作品の一番の読みどころかもしれない。
出てくる人物のほとんどはクズと言ってもいい人物。例えば、沙耶の両親や母方の祖父母だが、自分の保身のことばかり考えているし、叔父は、ワイルドを気取った小心者、その息子で従兄に当たる旬は、沙耶やそのクラスメートの果歩をレイプしようとする。伯母の夫である亨は、実の娘をレイプし、伯母の律子はまったく無関心だ。娘の香織にしても、夫が家出したということになっているが、実は「処分」したようだ。
これだけろくでもない人間をこれでもかこれでもかというほど出す作品はめったにないと言っていいだろう。世の中には「イヤミス」という言葉がある。読んだら嫌な気持ちになるミステリーというものだ。そういった意味では、本書も十分にイヤミスの資格があるが、残念ながらミステリー的な要素はほとんどない。全編がどうすれば沙耶が対象を「処分」できるかということに費やされており、そのやり方にアイデアがつぎ込まれているような気がする。それにしては、最後の終わり方はあっけなかったのだが。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。