アイヌ語学 | |
知里 真志保 | |
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本書の著者、知里真志保さんは、「アイヌ神謡集」の著者として有名な、智里幸恵さんの弟で、アイヌとして初めて北海道大学教授になった人だ。本書から感じられるのは、知里さんのアイヌとしての強烈な自意識。アイヌのことはアイヌしか分からないということだろうか。例えば、世界的な権威として、その名声をうたわれているジョン・バチラー博士をこのように批判する。
「バチラー先生は、キリスト教の聖書や祈祷書や讃美歌の類をたくさんアイヌ語に翻訳したものを残しております。たいてい今から60年ばかり前に書かれたものなのですが、それらの本を今開いて見ますと、チンプンカンプンで、さっぱり分らない。たしかに、書いているのはアイヌ語だということは分るのでありますが、さて何を書いているのか、という段になりますとさっぱり分らないのであります。アイヌが読んでも分らないアイヌ語で書いてあるという点で、これは誠に天下の珍本たるを失わないものなのであります。(以下略)」
短い文章であるが、書いてあることはアイヌ語の世界的権威とされたバチラー博士への批判が中心。そしてついでに、自らの師である金田一京助さんや地名研究の永田方正さんもバッサリ。
この文章には、ネイティブでない人が他言語を研究する際の限界が書かれているように思う。言葉というものは、ネイティブで普段自分たちが使っていないとそのニュアンスまではなかなか分からないものだ。だからネイティブでない人がいくら研究してもツッコミどころは多いだろう。一番いいのは、その方法論だけ参考にして、実際にはネイティブの人が具体的な研究を行うことだろう。
※初出は、「風竜胆の書評」です。