リケジョ探偵の謎解きラボ 彼女の推理と決断 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ) | |
喜多 喜久 | |
宝島社 |
どうもこの本がシリーズ2冊目のようだ。主要な登場人物は、友永久理子という国立T大に勤務するiPS細胞の専門家という、俗に言うリケジョ。そして懇誠リサーチと言う保険調査会社に勤める江崎誠彦という調査員。江崎が仕事で遭遇した事件の謎を久美子が解き明かしていくというのが基本的な枠組みである。
二人の関係は、どうも前巻でかなり接近しているようだ。(前巻はまだ読んでいないのでなんともいえないが) 二人は婚約者同志となり、結婚を目前にして、久理子がアメリカ留学から帰ってきたのをきっかけにいっしょに暮らし始めている。なお、久理子は帰国すると助教から准教授に昇進している。
本書は4つのエピソードで構成されている。収められているのは、江崎の仕事に関係した保険に関する以下の4編。
〇契約と選択
園部朝子という女性が山中でオオスズメバチの大群に襲われ命を落とした。彼女には5千万円の保険がかけられており、受取人は夫の啓治。
〇死の階段
増田香奈恵という女性の夫が脳梗塞で亡くなった。彼には5千万円の生命保険がかけられていた。香奈恵の前夫も脳梗塞で亡くなっており、3千5百万円の保険金を受け取っていた。
〇失踪の果つる地
平泉由里は夫の努と別れることを条件に志摩に二人で旅行した。ところが二人は言い争いになり、努は海に落ちて行方不明に。そのまま7年が過ぎてしまう。死亡扱いとなれば3千万円の保険金が支払われることになる。
〇生命の未来予想図
ある病院だけがん保険の支払いが多い。
実はこれ全部、犯罪がらみなのである。アイデアとしてはなかなか面白いのだが、実際にはかなりの無理があると思う。例えば「死の階段」などかなりの偶然性に期待しないといけないし、久理子の推理である「香奈恵は薬剤師なので、降圧剤をビタミン剤にすり替えて出した」というのも無理だろう。そもそも降圧剤は医師の処方箋により出されるもので薬が変わるとすぐわかるはずだ。また薬局でも薬の在庫管理をしているはずなので、もし医師の処方箋通り薬が出されていなければ、そこの薬局の責任者は気が付くだろう。
また「失踪の果つる地」では血液から、その血液の主の出身地をピンポイントで割り出しているが、それも無理だと思う。サンプルも少ないはずなのに、10年も前に無人島になっている島の出身だとどうしてわかるのか。
このほかにもツッコミどころは結構あるが、あとは自分で読んで探してほしい。まあ、これもひとつの小説の楽しみ方なんだろう。
☆☆☆
※初出は、「風竜胆の書評」です。