浜村渚の計算ノート 9さつめ 恋人たちの必勝法 (講談社文庫) | |
青柳 碧人 | |
講談社 |
数学を始めとする理系教育が迫害される社会。数学テロ組織「黒い三角定規」と戦う警視庁「黒い三角定規・特別対策本部」所属の刑事たっちと、千葉の中学生で、天才数学少女浜村渚の物語。今回も短編集で収められているのは以下の4編。
〇1を並べよ、並べよ1を
現状に不満をもつ民衆をあおって暴動を起こそうとする黒い三角定規のジェネラル・レピュニっト。民衆をあやつる25マスの数表のからくりとは。出てくる数学はレピュニット数。レピュニット数とは「1」を並べた数だ。
〇私と彼氏の不等式
眼科医で都議の平畑武彦が毒入りのマシュマロで殺された。殺人事件現場に残るのは、jn>mjという不等式。
ところで、この平畑氏、目の悪い中学生の好きな科目は数学だということで、数学の好きな子ほど目が悪くなる傾向があると主張していたらしい。でも一応数学をテーマにした小説なら、それは相関関係であった因果関係じゃないとツッコメよと思ってしまう。
〇新宿恐竜大戦争
恐竜(ロボット)大決戦。出てくる数学は順列、組み合わせ。
〇恋人たちの赤と黒
ルーレットで出てくる数字により人質が強酸の水槽に落とされる。出てくる数学は確率。犯人を捕まえる代わりに、せっかく捕まえていた黒い三角定規の幹部キューティ・オイラーを逃がしてしまった。
ここまでこのシリーズを読んでくると、紹介される数学がかなり偏っているのを感じる。どうも数学基礎論や数論のいかにも数学好きな人が興味を持ちそうなことに重点が置かれているのである。私も理系(電気工学)で学んだが、実はこのような方面にはあまり興味が持てない。解析学などもっと実用的な分野ならともかく。
また「正しい理科知識普及委員会(自称)」からも一つ指摘したい。この本にも「高圧電流」なる表現があった。(p196)。こういった表現を目にすると作者は本当に理系の学問に詳しいのだろうかと疑って、読み進める気が失せてしまう。
まあ、私の考えでは、数学は理系というより、すべての学問の基礎となるもので、理系と呼ばれる分野では高度なものを使うことが多いということで、本来は理系に区分されるものではないと思うのだが。ただ、理系方面に数学の得意な人が多いことは事実だ。
※初出は、「風竜胆の書評」です。