日本史の謎は「地形」で解ける (PHP文庫) | |
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・竹村公太郎
日本史にはいくつもの謎がある。また、いくつもの定説といったようなものもある。ところが、そういったものが覆ることも結構多い。人文関係の分野には資料至上主義といった風潮があり、資料にないところは、その道の大ボスのご高説を定説として受け継いでいくようなところもあるようだからだ。この資料至上主義、大ボス至上主義は、「逆説の日本史」(小学館)の作者でもある井沢元彦さんなどが批判しているし、以前読んだ 高木彬光さんの神津恭介シリーズのひとつ、「古代天皇の秘密」(角川文庫)でも、それに対する批判のような箇所があったと記憶している。
本書が画期的なのは、そういった謎や定説に対して、「地形」という切り口から挑んでいるというところだろう。歴史に対してこういった攻め方ができるのは、著者が人文系の人ではないからだろう。それもそのはず、奥付の著者紹介によれば、著者は、東北大の修士課程を出た土木を専門とする人だそうだ。だから、「地形」というところに目を付けたのだろうと納得する。
ところで、この「地形」に目を付けると、どのような新事実が浮き彫りになってくるのか。本書に収められているのは、関ケ原勝利後に家康が直ぐに江戸に戻った理由、信長の比叡山焼き討ちの理由、頼朝が鎌倉に幕府を開いた理由など全部で18の謎や定説に対する新説である。
書かれていることが、本当に正しいかどうかは分からないし、著者の想像力がかなり入り込んでいるようなところも見られる。しかし、カビの生えたような文献ばかり眺めていても、真実はなかなか浮かび上がってはこないだろう。本書に記載されているような方法論は、歴史探求の手法としては、有効ではないかと思うのだが。
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※初出は、「風竜胆の書評」です。