著者は、日本における数理計画法や金融工学の権威である。調べてみたら昨年鬼籍に入っておられた。亡くなられていたのが全くといっていいほど報道されなかったので、全然知らなかった。芸能人なら結構報道するのに、こういった人はよほど有名でないと報道されないようだ。こういうところからも、わが国の理系人の扱いが伺える。日本が科学技術立国としてやっていくつもりなら、もっと理系人の待遇を良くしないと、頭脳流出がどんどん進んでいくだろう。
さて本書は、工学部の語り部を自任する今野さんの自伝的小説だ。今野さんは電力中央研究所、筑波大学、東京工大、中央大を歴任しているが、本書で扱われているのは、筑波大学の助教授(現准教授。当時は准教授という役職は日本の大学にはなかった。)時代の話である。登場人物はヒラノ教授となっているが、そのまま今野さんの事だと思えば良い。
ヒラノ助教授は、パデュー大学のアンドリューウィンストン教授に客員教授として招かれて4か月ほどその大学で教えることになった。筑波大学の状況にうんざりしていたヒラノ助教授にとっては、渡りに船だったらしい。ただ教授として招かれたはずが、結局准教授になったらしい。
アメリカの大学事情が良く分かる。ヒラノ准教授は、世話になったユダヤ系の人々をものすごく好意的に描いているが、その一方でアメリカ大統領となるレーガンは大嫌いだったようだ。また、IBMのウォルフ博士には国際数理計画法シンポジウムの開催地のことで一杯食わされたのを、ずっと根に持っていたらしい。その他興味深いエピソードや思わず笑ってしまうようなエピソードなどが満載である。
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