マリヤンカ mariyanka

日常のつれづれ、身の回りの自然や風景写真。音楽や映画や読書日記。手づくり作品の展示など。

『グローバリズム出づる処の殺人者より』

2013-05-08 | book
この物語は最初から終わりまで、インドのある運転手が書く手紙の形で語られていく。
宛先は中国の首相・温家宝。
もちろんフィクションだ。

インドの底知れぬ格差社会の現実など、
ま正面から描いてもどうにも描ききれないに違いない。
ルポなどではなくこのようなフィクションだから伝えられる真実がある。

菓子作りの飲酒が禁止されたカーストに生まれた主人公が
運転手として仕えた大金持ちの主人と過ごすうちに学んだ事とは?
始めからいくつものエピソードが絡まり合い、
物語は巧みに転がっていく。
読むほどに露わになってくるインドの現実に驚愕する。
鳥かご社会の仕組みが人々の肉体と精神の自由を蝕み、
使用人は骨の髄まで使用人として生きる。
しかし詩の1節が主人公を動かす。
「おれは長年その鍵を探してきた。
だが、扉は常にあいていたのだ」
たった一人の反乱も許さない社会で勇気を出して鳥かごから1歩を踏み出せば、
過酷な事実が待ち受けている。
主人公はどうするのだろう、、どきどきする。

闇の世界の人々と、光の世界の人々のリアルな日々、、、
同時に中国そして日本やアメリカの姿もその中から浮かび上がってくる。

作者はジャ-ナリストだそうだ。
甘さを排除し、苦いユーモアがいっぱいだ。
希望はない、
しかし、人々は生きる。
生きていくとはどういうことなのか、
どう生きるべきか、

それにしてもインドはすごい国だ、
インドは変わるのだろうか?

原題は「THE WHITE TIGER」この題名だったらこの本を手に取らなかったかもしれない。

『グローバリズム出づる処の殺人者より』(2008年度ブッカー賞、受賞)
   アラヴィンド・アディガ(1974年生まれ~ ) 
      訳/鈴木恵
          2009年、文芸春秋社
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