マリヤンカ mariyanka

日常のつれづれ、身の回りの自然や風景写真。音楽や映画や読書日記。手づくり作品の展示など。

消える記憶、変わる記憶

2016-02-02 | Weblog
カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』を読みました。

騎士や龍の登場するファンタジ-仕立ての物語です。
龍が霧を吐いて、人々の記憶を消しているというのです。
騎士物語は苦手なのですが、
この小説には深く考えさせられるところがありました。

『忘れられた巨人』
   カズオ・イシグロ 著  土屋政雄 訳
   2015年 早川書房

記憶はとても個人的なものと思います。
同じ出来事の当事者同士であっても、
二人いれば2つの、
三人いれば3つのまるで違った過去が浮かび上がることがあります。

誰しも自分をよく見せようとして、
自分の汚点を隠そうとして、
嘘をつくつもりではなくても、
少しずつ記憶が改変されていく、ということはあると思います。
あるいはすっかり忘れてしまうとか、

時には集団全体の記憶が変わることがあります。
記憶が改変されることも。

現代の日本の上空にも龍がいて霧を吐き続けているのかもしれません。
その霧の中では、
子どもだった頃の素朴で純真な気持ちを忘れ、
沖縄の基地の傍で暮らす人たちのことや、
東北の仮設で暮らす人たちのことも忘れて、
差別を受けて苦しむ人のことも、
世界の紛争地の子どもたちや
難民の苦しみなど無視して、
現在の自分の便利で豊かな生活のために何を犠牲にしてるのか、
など想像することもなく、
ましてや祖父や祖母の遠い記憶に思い至ることは無く、
ただ今の欲の追いもとめるままに暮らすことに何の疑問も持たず、
楽しく暮らせるのです。


この小説はそのようなことを言っているわけではなく、
年老いた夫婦の愛の物語であり(個人の記憶)
二つの国の過去と現在の物語です。
過去の悲惨な記憶(集団の記憶)を呼び覚ませば、
憎悪がよみがえり
復讐の連鎖の引き金を引くことになるのだろうか、
穴の底ですっかり弱って、じっとしているだけの龍、
しかし霧の中で息をしている…
龍を殺さない方がいいのか、否か、
スリリングなファンタジ-です。






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