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『GAGARINE/ガガーリン』

2022年03月06日 | 映画(か行)
『GAGARINE/ガガーリン』(原題:Gagarine)
監督:ファニー・リヤタール,ジェレミー・トルイユ
出演:アルセニ・バティリ,リナ・クードリ,ジャミル・マクレイヴン,
   フィネガン・オールドフィールド,ファリダ・ラウアジ,ドニ・ラヴァン他
 
平日の夕方にせっかくなんばパークスシネマまで行ったのだから、
1本観るだけで帰るのはもったいなさすぎる。
 
……と書いて、映画には何の関係もない話ですが、
「もったいなすぎる」と「もったいなさすぎる」とどちらが正解か不安になりました。
「形容詞+すぎる」の場合、たとえば「少ない+すぎる」は「少なすぎる」、
「汚い+すぎる」は「汚すぎる」が正解。
「勿体ない」は普通に使われるけれど、そもそもは「勿体がない」だから、
「ない+すぎる」で「勿体がなさすぎる」が正解。ゆえに「なさすぎる」で合ってます。
これがもしも「知らない+すぎる」や「飲まない+すぎる」ならば、
「さ」を入れずに「知らなすぎる」「飲まなすぎる」というのが正解。
嗚呼、日本語はむずかしい。
 
閑話休題。
 
ユーリイ・ガガーリン、きっと誰もが知るソ連の宇宙飛行士
1961年に人類初の有人宇宙飛行で宇宙船に単身搭乗した人。「地球は青かった」と言った人。
そんな彼の名前を冠した公営住宅がパリ郊外にあるとは知りませんでした。
 
ガガーリンの宇宙飛行を記念して1960年代初頭に建てられたこの“ガガーリン団地”は、
住民の熱い歓迎を受けて本人も植樹に訪れたそうです。
ところが2024年のパリ五輪のために取り壊されることに。
そんな背景をモチーフに撮られた本作、私はとても気に入りました。
 
ガガーリン団地に住む16歳の少年ユーリ。
シングルマザーの母親は男のもとへ走り、息子からの電話にすら出ようとしない。
寂しくてたまらないユーリだが、同じ団地に住む親友フサームや、
彼のことを気にかけて食事に呼んでくれる人がいるから、なんとか生きている。
 
団地の老朽化が顕著となり、このままでは取り壊されてしまう。
ここから動きたくないユーリは、フサームと共に団地のあちこちをチェック。
不調のエレベーターの制御盤や足りないハロゲン電球の数を調べているが、
調査員が他の棟よりは高得点を付けても、取り壊しになるのは時間の問題。
そして住民全員退去の日がやってきて……。
 
五輪開催地で、見た目がよろしくないことを理由に古い団地が取り壊される。
これは日本も同じことで、『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』(2020)のまんま。
あちらはドキュメンタリーでしたが、フィクションの本作では、
その名もユーリで宇宙飛行に憧れる少年の悲しく切ない姿が描かれています。
 
住民たちが立ち退くなか、こっそり中に残るユーリ。
念入りに計画していたとおりに、保存食を用意し、温室までつくって植物を栽培します。
貯水もしているから、飲料や洗面にも苦労しない。
それでも、期限がやってきて爆破されればおしまいだとわかっているのに。
 
ユーリがそんな生活を送っていることを知っているのは、
彼が想いを寄せるロマ(ジプシー)の少女ディアナと行き場所のないヤクの売人ダリのみ。
土地を追い出されるまでユーリと共に過ごしていたディアナは、
元住民たちが爆破の瞬間を一目見ようと押し寄せるなか、
ユーリを心配して「まだ上に人がいる」と叫ぶけれど、もちろん誰も信じない。
 
この頃、エモいエモいってみんな言うけど何やねんと思っていましたが、
こういうのをエモいと言うのではないでしょうか。美しい。切ない。

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